Andy Stott - Faith In Strangers

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  • Andy Stottがそれまでの入念なダブ・テクノから、よりアブストラクトで摩擦するようなサウンドへと転換した『We Stay Together』(英語サイト)以降、彼の作品を聞くと、かさぶたを剥いだり痣になっている部分を突っつているように感じる。つまり、すごく気持ちいい痛みということだ。彼が2011~2012年にModern Loveからリリースし、国際的評価を獲得した『Luxury Problems』(英語サイト)へと帰結した3作品は、変わった角度からダンス・フロアと関連を持とうとする音楽とも異なり、他ではなかなか味わうことの無い感性を刺激していた。確かに素晴らしい作品ではあるのだが、その音楽観は若干、Stottというフィルターを通したハウス・ミュージックのように感じられたし、もし正確にリズムの要素をカウントすることが出来るならば、Stottの荒々しいサウンド・プロセッシングによるエフェクトを反転させて、比較的分かりやすい4つ打ちとして捉えることが理論的には可能だった。 しかし『Faith In Strangers』の音楽は、そんな考えを遥かに飛び越えている。2010年頃に彼の音楽を蝕んだのが何であったとしても、今となってはDNAの配列が完全に入れ替えられ、その結果、彼のディスコグラフィーの中で最も完成度の高く、どこを取ってもユニークな今回のアルバムへと結実している。それはまるで彼の初期作品からこぼれ落ちた沈殿物から形成された有機体を聞いているかのようだ。この点は本作の序盤において特に明らかで、広々とした静寂によって幕を開け、呻り声へと続いた後、背筋の凍るけたたましいホーン・サウンドが鳴らされている。そこから至る"Violence"は『Luxury Problems』と同様の素材から切り取られているが、はっきりと異なる形へと織り込まれている。Stott御用達のボーカリストであり元ピアノ講師であるAlison Skidmoreが本作で再び登場しているが、彼女は地獄のようなハウス・ミュージックに天上のムードをもたらすのではなく、認識を超えた場所でズタズタに打ちつけられる音素材を用いたトラックの中、成熟した歌を届けている。 『Faith In Strangers』は制作における明確さと幽霊のようなアンビエンスの中間を複雑に駆け巡っている。それは明確なメッセージ、残響音、そして、息遣いが聞こえ次の展開を期待させる静寂によって成り立っている。ひんやりとしたエレクトロが膨張する狭間で、急激な動きを見せるStottだが、ざらついたインタールードでは一休みしており、つんのめるようなサウンドには本作とダンス・フロアの最も密な繋がりが表れている。しかし『Faith In Strangers』がおそらく広義のボディ・ミュージックである一方で、優先されているのはStott初期作品の痕跡のようなパルスではなく、べっとりと滴る雰囲気だ。このアプローチの好例が"How It Was"だろう。表面化でドラムの小編隊が駆けているのだが、実際に聞こえてくるのは金属の壁にぶつかっているようなカタカタと鳴る音だけだ。メロディを運んでくる抑制されたパッドはドスンと轟くリズムよりも小さい音にも関わらず、ミックス・バランスを支配する力を持っており、甘美な感覚でリスナーを和ませている。 最もダークで極限的な場面でさえ、リスナーの心にダイレクトに響くアルバムのように『Faith In Strangers』は暖かく人を惹きつける。タイトル・トラック"Faith In Strangers"はポストパンクなエレクトリック・ベースをローズによる鈍く光るコードと歯切れのいいビンテージ・ドラム・マシンにマッチさせており、不協和音とノイズが詰まった本作にあって場違いなまでに綺麗な着地点を用意している。最後にStottは変化球"Missing"を持ってきている。1マイルはあろうかというワイドなベース、掻き毟るようなストリングス、そしてSkidmoreの頭蓋の中で録音したかのように聞こえるボーカル・ラインによって生まれた驚異の讃美歌だ。こうして歪んだ煌きと共にアルバムは終了する。そしてそこに残されるのは打ちのめされたという事実と、今年最も突出したエレクトロニック・ミュージックを聞いたという手ごたえだ。
  • Tracklist
      01. Time Away 02. Violence 03. On Oath 04. Science & Industry 05. No Surrender 06. How It Was 07. Damage 08. Faith In Strangers 09. Missing