Four Tet - Fabriclive 59

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  • FabricのようにDJから敬意を表されるようなクラブはこの地球上にはほとんど存在しないだろう。ここのミックスシリーズを手掛けたアーティストたちの感謝の言葉を読むだけで、多くのアーティストたちがミックスシリーズをFablicへの恩返しとして捉えていることが理解できるだろう。Four TetことKieran Hebdenもその1人であるが、今回彼はミックスシリーズとしてのアイディアを一歩先へ進めている。彼が手掛けた今回のFabricliveシリーズは、2ステップ、ハウス、ブロークンビーツのタペストリーとも言える、多様な音楽が混ざり合った魅力的な作品となっているが、Fabric周辺のストリート、そしてスタイリッシュでインダストリアルなクラブ内の音をフィールドレコーディングして編み込んでいる。これによってこのMix CDには地理的な要素が加わり、うなるベースや反響する人の声と相まってまるでRoom OneからRoom Two、そしてRoom Threeを行ったり来たりしているような感覚に陥るのだ。 Hebdenの多国籍なスタイルにはジャズが大きな影響を与えていると言われることが多いが、この作品でも彼の好むシャッフルの効いたチューンダウンされたドラムは健在だ。個人的にはミックスの手法にもジャズの影響が出ていると言わせてもらいたい。彼のトラックからトラックへの移行には、ある種ジャズのシンコペーションのようなものが見受けられ、KHのロマンティックでムーディーな"101112"からYoungstarの"Pulse X"のアグレッシブなビートが大胆に入ってくる部分に顕著にその特徴が表れている。影のある雰囲気を持ったKHの曲に、ベースが激しく押し分けながら入り込んでくるのである。そして、2001年に発表されたC++の奇妙な魅力に溢れるトラック"Angie’s Fucked"のダイヤルアップモデムの中で発生したミニレイブのような電子ノイズの狂乱がBurialの"Street Halo"のゴーストのような霧に飲み込まれていく様子も必聴だ。 また、今回Four Tetが音楽に対する雑食性を抑えていることがこのCDを更に興味深い存在にしている。彼がDJ KicksシリーズでCurtis Mayfield、Akufen、そしてAnimal Collectiveまでをミックスした才能の持ち主だということを忘れないで欲しいのだが、今作品ではその天性の折衷主義がフロア側からの要求によって適度に和らげられている。このミックスに収録されている大半の楽曲は2ステップとガラージュだ。今世紀への変わり目にUKで生まれたこのアンダーグラウンドな2ジャンルは、ジャングルのドラムパターンをシンプルで印象的なR&Bテイストのトラックに落とし込んだものだが、BPM130台のスピードがありながらも趣のあるチルアウトテイストを感じさせてくれる。90年代後半にホワイト盤のみでリリースされたActive Mindsの"Hobson’s Choice"が、モダンな作品であるSTLの"Dark Energy"と無理なく肩を並べて収録されていることを考えると、この作品における2ステップからダブステップまでの一連の流れはかなりスムースに受け入れることができる。 Hebdenは後半、Ricardo Villalobosから自身のストレートなハウストラックへとミックスするパートでグッと盛り上がるハイライトを生み出している。ヒプノティックなヴォーカルサンプルとジャッキンなリズムが特徴的なこのトラック"Pyramid"はアルバムのみに収録されている新曲で、まるで『There Is Love In You』の"Love Cry"や"Angel Echoes"をダンサブルにしたような趣を見せている。そしてアウトロの後に彼自身の曲がもう1曲収録されているが、これはFabricを出て、Farringdon駅周辺のストリートへ戻る気持ちにさせてくれる。この子守歌のようにメロウなトラック"Locked"は、日曜の午後にストリートで脂っこい朝食を取った人たちを眠りにつかせるための作品なのだろう。