Moog Music - Voyager XL

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  • 1960年代後半、世間一般の認知度が上がり始めていたシンセサイザー。Wendy Carlosの"Switched On Bach"のようなアルバムが、いままで聴いたことのないサウンドを世代全体に届けるにつれ、ミュージシャンたちはこの新しい機材をどう自分たちの音楽に取り入れるか模索し始めていた。しかし、当時のシンセサイザーはまだ科学的に開発の段階の、不格好なくらい大きな機材で、ほとんどのミュージシャンにとってツアーで使用するのは不可能だった。1970年にBob Moogが「Minimoog」を発表するまでは。この新機材によって、音楽界は大きな変貌を遂げることとなる。 「Minimoog」は、シンセサイザーの主要部分を取り出してコンパクトで耐久性のある形にまとめたものだ。パッチコードなしでプログラムを作ることもできる。デザインはそぎ落とされているが、独創的な3つの発振器を持つ構造によって、大音量を発することができる。この新機材は登場してからすぐにそこら中に広まり、Sun Raや「Yes」「Emerson Lake & Palmer」などに使われ、「Kraftwerk」の'Autobahn'のようなトラックのトレードマーク的なサウンドを可能にしている。 2002年にBob Moogは「Minimoog」の最新版を新たに発表し、オリジナルから抜粋されたアナログシグナルだけをつかったものにデジタルのパッチストレージとコントロール機能を搭載。 この新しいバージョンは「Voyager」と呼ばれ、低コストのバーチャルアナログ機材との競争のなか、多くのミュージシャンに使用されている。サウンドと妥協のないクオリティーが購入価格に見合っていると判断されているからだ。それから「Voyager」はアップデートを続け、「Minimoog」の誕生から40年目にあたる2010年後半、61のキーを持ついままでで最も冒険的な「Voyager XL」が発表された。 「Voyager XL」をじかに見てすぐに目を引くのはそのサイズだ。幅42インチ、高さ19インチの大きさのため、スタジオ内のどこにフィットするか考える際にはよく考える必要だ。配置場所は頑丈でなければならない。重さが約23キロもあるからだ。目立つ見た目のため、1度配置を済まれると、電源スイッチを入れる前に注目を浴びる機材となるだろう。 外見以外に、「Voyager XL」の本当に新しい部分は何なのだろうか?Moogのいまのラインを知っている人は、すぐにこの新作と、いままでの「Voyager」シリーズの機能拡張オプションとの類似性に気づくはずだ。真横から見れば、標準のコントロールがすべて以前のものと同じレイアウトで装備されていて、今回新しく装備されたコントロールはメインパネルの左側へと追いやられている。そしてそのエキストラパネルの幅のところに、新たに15のキーが通常の44キーのキーボードに配置されている。1度にワンノートしかプレイバックできないシンセサイザーに5オクターブは過剰だろうか?ほとんどの人にとって答えはおそらくそうだろう。しかし過剰ではないと主張するキーボードプレーヤーもいる。「Voyager XL」は完全なMIDI出力が可能のため、マスターキーボードとして機能できる。そうであれば余分にキーが付いていても何も問題ないということになる。 エキストラパネルコントロールの話題に戻ると、Moogのエンジニアたちがこの新作でしたこととは、元々の「Voyager」のコントロールボルテージ・ジャックをパネルの上から正面へ持ってきて、「Moog CP-251」コントロールプロセッサーや「VX-351」エキスパンダーなどを追加で加えたこと。アナログシンセサイザーの全部分はボルテージによってコントロールされていて、新しく追加された機能によって、「Voyager」やその他の対応しているシンセサイザーは、出力と入力部分をオーディオケーブルでつなげることによってさらに深いコントロールが可能になる。よって「Voyager XL」は、オリジナルの「Voyager」にエキスパンダーが追加されたもので達成できることに加え、コントロールボルテージ・パネルでいくつかのボーナス的機能を楽しむことができるのだ。 これらは、とても目に留まるようなものだ。LFOで五十秒ごとに一周する程度遅い速度で回ることが出来、作り上げた音を長く、特徴づけてくれる。このLFOではまた、シーケンサーからMIDIクロックへの切り替えも可能になり、特典ボーナスみたいなものだ。そしてXL付近にある二つのアテニュエーターのお陰で、二つ目のLFOそしてリボンコントロールされたCVのアウトプットからのパッチケーブルがなくてもルーティングができるようになっている。 パッチを保存できるという点でとても良いし、アテニュエーターを通して他のシグナルを流したい場合、他のソースをプラグインするだけで良い。 Voyager XLの特筆すべきもう一つの点は、リボンコントロールだ。500mmのとてもセンシティブな紐で、キーボードとCVパネルにあるものなら全てをコントロールできるコントロールパネルを結ぶ役目を持っている。GateとCV 2つのアウトプットがあり、ボルテージシグナルを自分の指が紐の上にある時に送ってくれる。とても便利である上、キーボードと統合した時に、タッチパネルやLFO、様々なコントローラーが、自分の音をより良いものにしてくれるのだ。キーボードを使わないでもリボンコントロールで音程を合わせながら、タッチパネルで音階を決めるなんて事もできるのだ。 「Voyager XL」と他のより安価な「Voyager」シリーズとの違いを答えたところで、実際にこの新作を購入する価値はあるのだろうか?これは市場価格が希望小売り価格4995ドルにマッチする希なオーディオ機材である。フレキシブルなモノシンセサイザーを探しているなら、その値段を払えば「Voyager XL」よりも多くの機能を持つモジュールシステムを作ることができるだろう。もしMoogのサウンドやクオリティーのファンなら、約4000ドル支払えばオリジナルの「Voyager」に上記2つのエキスパンダーを加えたものを購入することもできるだろう。MIDIシンクのLFOやリボンコントロール、エキストラキーなどのために1000ドル追加で支払うのは若干高すぎると思うかも知れないが、その価値は十分あると判断する人たちもいることだろう。本当にかっこよくて必要なモノがすべてそろった機材で、Moogの40周年記念として限定生産されたモノと考えれば、確実にコレクターや金持ちの心をくすぐるはずだ。所有することのできない残りの私たちはただうらやましがるしかない。
RA