Sustain-Release 2019

  • 類稀なるフェスティバルが、今年はPowder、DJ MarcelleやJ-Zbelといったアーティストを迎えて開催された。
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  • 映画や長距離ドライブと同様に、フェスティバルでは瞬間的に別の意識状態を間借りできる。数時間浸っているうちに、普段の日常を支配している価値観に疑念が投げかけられる。肉体は器となり、脳はスライムと化し、全体としての運用基準は如何に愉しみを見つけ出してフェスティバルを楽しむかという事に集約される。   先の週末に私が目撃したものの中には、女性が地球にキスをした後、おもちゃのカウボーイハットを掲げながら馬笑いしつつ霧の中に消えていく様子。私は切り株にもたれかかってしばし睡眠を取った、200ヤードほど離れたステージからは叩きつける様なビートが聞こえて来て、洗濯機に閉じ込められる夢を見る事に。金属シートが立てる音にうっとりしながら、しっぽりとしている3人組を跨いだ事もあった。それから、どちらも私のお気に入りのDJがCDJを舐める様子を二度目撃した。ダンスフロアで葡萄を食べさせ合うグレコ・ローマン・スタイルのレイバー達もいた。   今し方、描写したこの光景は、今年で6回目の開催となったニューヨーク州モンティチェロのSustain-Releaseとして知られるファンタジアの、ほんの一幕だ。我々の仮住まいとなったキャンプ場Kennybrookでの賑やかな生活を含む、62時間に及ぶアヴァンギャルドなダンス・ミュージックとして総括するのが適当だろうか。(仮設トイレからボートハウスから何から何まで1983年のホラー映画『Sleepaway Camp』を彷彿とさせる様な場所だ)。年を重ねるごとに少しずつマイナーチェンジを経て現在の良好なオペレーションにチューニングされたSustain-Releaseだが、音楽的なキュレーションと丁寧に考え抜かれた空間の使い方、参加することの叶った残念ながら一握りの素晴らしいクラウドを差し置いて、コアにある精神は変わらず。それは、湖のほとりのキャンプ場に1000人のダンス・ミュージック・フリークを集めたらどうなるかという実験だ。
    開催初日を丸一日かけて行われたバスケット・ボール・トーナメントはまるでインプロ・セッションだった。チーム名が愛らしい—"Double Salmon" "More Fog Please" "Fog Juice"といった具合—そして実際にバスケをしようという心意気に頭が下がった。WeenのTシャツを着たDJ Pythonがこの一部始終に、スポーツ会場でよくかかるような音楽をサウンド・トラックとしてかけていた。"Macarena"の馬鹿げたEDMリミックスなどを交えて。(これに16時間足らず先立ち、彼は観客を圧倒させる素晴らしいアンビエントセットで最もロマンチストな一面を見せたばかりだ)DJ、プロモーター、一般人問わず、試合の行われるコートサイドで、呑気なトカゲのように太陽の日差しを楽しむ様がこのクラウドのエコシステムを体現しているようだった。   過去4年に渡って室内バスケットボール場として使われてきたメインステージでは、正真正銘のレイヴが起きていた。今回の開催に合わせて風水的に運気を上げるよう調整が行われていると聞かされたこのステージの音とBPMはよりハードで幅広く、Bossaステージの澄ました音と比べてパンチがあった。このステージによくフィットしたのは170 BPM(前日深夜前の最高速)に届く勢いのAkuaやLSDXOXO、それから更にこれを超えて来たリヨンのJ-Zbelという二人組に至っては、ダンスフロアにガソリンを撒いて火をつけたかのような盛り上がりだった。謎めいて霧に包まれた二人は、ガバやアシッド・レイヴの曲を数時間にわたり繰り出し、90年代後半の無尽蔵のフェティシズムを完全に理解していた。
    その日の夜のBossaステージでは、Laurel HaloがAgrippaの激しい曲やLyzza"Sleeve"の自身によるリミックス、K-Loneの"Sine Language"、それから不明のトラック数曲を『X-Files』のテーマで繋ぎ合わせたセットで終末を表現したかのような狂喜を呼び起こした。私はクラウド・サーフィングをしていたBeta Libraeの足に蹴飛ばされそうになっていた。翌日の晩、彼女もまた複雑で壮大なセットでステージを爆発させるようなセットで観客を沸かした。   翌日は、メインステージでこの曲を投下し観客を壮観させたdBridgeを筆頭に、これと良い具合で続いたHank Jackson、Halal & Relaxer、それからDr. Rubinstein & Roi Perezがそれぞれ誰がコズミックIDMの王者となるか冠を争い合うパフォーマンスで、アシッド音の酸により顎が痛むほど。プールサイドでは愛らしいDJ Marcelleがゲットー・テックからダブケ、ダブからダンスホールに至る幅広いヴァイナル・セットを、雨を物ともせず披露していた。
    ライティング・アーティストのKip Davisによる2000平米程の森をライトアップしたジャッロの映画のような空間The Groveが、強烈なセットの間の箸休め的に脳みそを休める役割を果たしていた。このステージは人がひとり通れる程の小さな橋を越えなければたどり着けない場所にあった。Quiet Timeのショーケースのハイライトは、優雅な宇宙飛行のような音の新人Nadia Khan、それから前夜のDJ Healthyによる深夜の第4世界のような音。これら3つのステージを行き来するに、エネルギーバランスのダイナミクスを研究している気分になる。   エネルギーのダイナミクスにおいて、何にも引けを取らないのがPowderの帰還だった。日曜日の午前4時に開始した彼女のセットは、7時間に及ぶイタロとハイ・エナジーのオリンピクスだった。終わり頃、Bossaステージから流れ込んできたダンサー達がちょうど良い角になだれ込んできた。(数秒しないうちに真空から現れたかのようなスタッフ達が鉄製のバリケードでこのエリアを塞いだ。)11時半を過ぎた頃、赤く灯る電子タバコの光と、真昼の太陽に項垂れる頭に、4度目のアンコールに応えるPowderのかけるInternational Music Systemの"Dancing Therapy"、この秀逸なトラックのエモーショナルなコーラスがエトスの様に我々がキャンプ場をとっくに去った後まで鳴り響き続けた。
    幸せな逃避行には決まって訪れる終わりの時がCamp Kennybrookにも訪れようとしていた。最終日の朝、キャンパー達が頭と痛む関節を抱えて、疲れ目で、下水の匂いのするキャンプ場を後にする光景は終末的な様相だった。靴紐を結ぼうと屈んだ私の足元で、両まぶたに落ち葉を乗せて屍のように横になっている一人のキャンパーが、微笑みを浮かべて、喉払いをしながら次の様に締めくくった。「ダンスの目的がエゴを消滅させることだとしたら、僕には何にも残っていない。」 Photo credits / Raul Coto-Batres - Lead, Basketball, DJ Python, Dorm, Pool Party, Forest Sean Schermerhorn - All others
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