Theo Parrish Open to Last at Liquidroom

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  • ワシントンDC生まれのシカゴ育ち、デトロイト在住。そのどの街を愛しつつも、誰にも似ない、彼自身でしかないサウンドを創りあげてきたTheo Parrish。彼のリリースや運営するSound Signatureの功績は今さら説明するものではないが、現在でも自身の作品はもちろん、新鋭Byron The Aquariusや、デトロイトのベテランAlton Miller、そしてドラムンベース・ニュージャズのレジェンドDego & Kaidiをピックするなど、揺るがない価値と新鮮な刺激を併せ持った音楽を世に送り出している。独自の視点が存分に活かされたDJとしても高く評価されているTheo Parrishが、東京を代表するライブスペースLiquidroomでオールナイトでプレイするとあれば、とびっきりの音楽体験は約束されたも同然。多くの人が同じように思っていたようで、Liquidroomのエントランスにはフロアが半分以上埋まるほどの人々が、夕刻からの大雨を苦にすることなく集まっていた。 いざ会場に入ると、バーよりもまず音楽と言わんばかりに皆がフロアへと向かう。それを迎えるTheoは自らのトラックと思わしき、静かで大きなうねりを生むビートダウンでじっくりと期待を煽ったかと思うと、そのムードをひっくり返すような煌めくフュージョンファンクへと展開する。一晩を通して一般的な流れや展開に則ることはなく、特に序盤は一曲ごとにジャンルが移り変わっていくようであったが、ステップを踏まずにはいられない強いエネルギーを放つ選曲だ。 Andreya Trianaの艶やかな歌声が響くTheoの楽曲"Chemistry"を転機に、80年代半ばのエレクトリックなディスコを基軸とした展開へ。そこからTalking Heads "Born Under Punches"の粘度の高いダウナーなグルーヴへ落とし込むのはまさに豪腕という流れ。ラフなミックスという表現もできるが、彼のアイソレーターとボリュームコントロールは曲と曲のギャップや時代を歪める魔力が確かに宿っている。そしてプレイする音楽を誰よりも愛するがゆえの自信に、オーディエンスも引き寄せられているように感じた。Larry Heardの名作『Sceneries Not Songs, Volume One』からのトラックも、かつてないほどロマンティックに響かせていたのも忘れられない。ハウスフリークにはたまらないご褒美のような瞬間だ。 ピークにあたる時間となると、フロア最後部まで身動き取れないほど人が集まっていたが、Smith N Hackなど意外性のある選曲を挟み込んで、熱はいささかも途切れてはいなかった。徐々にパーカッシブでテンポも安定した、何がかかっても安心という展開に移行していくが、それでも次は何だろう?と思わせる先が見えないが故の期待は残ったまま。 トライバルなビートからピッチの速いヴォーカルハウスへの多幸感溢れるつなぎを魅せると、後半戦はディープハウス寄りな流れに。これまでにプレイされた様々な音楽の要素がハウスに集約されていくように感じられる展開だ。エレピのフレーズ同士を絶妙なボリュームコントロールで切り替えつつ、4つ打つ中心でまとめあげていく。ラストに差し掛かってもブース内のTheoはかけたい曲や表現したいシチュエーションがどんどん浮かぶようで、彼の真骨頂ともいえる生音のファンクをメインとしたフェイズへと移行した。最終盤にプレイしたディスコクラシックが響く中フロアを巡ると、まだまだ残る多くのオーディエンスの中で、入り口に並んでいた面々も満ち足りた表情で踊っている。まさに虜にされるという言葉がぴったりの一晩であった。 ひたすら胸を打つ音楽がもたらされる揺さぶりの応酬で、ややラウドな音響ではあったがそれでも夢中になって楽しむことができた。この日は他のフロアにも出演者がいない、真にTheo Parrishオンリー。そのため上階のラウンジスペースでもTheoのDJが流れており、途切れなく選曲を楽しむことができたのも、個人的には嬉しかった点だ。また、この日の照明はYamachang氏によるもの。Theoのアグレッシブなプレイの緩急にも追従し、エモーショナルな展開をより印象的に彩っていた。 ロングプレイを余裕でこなしたTheo Parrishの辣腕ぶりと、ともすれば冒険的な決断であったオールナイトセットを決断したオーガナイザーには感謝するしかない。類を見ないほど贅沢な旅で、週が明けた今も深い余韻が残っている。 Photo credit / Katsumi Yamane
RA