Pioneer DJ - DJM250 MK2 / Pioneer DVS system

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  • 手頃な価格のDJはビッグビジネスだ。人気の振り子が徐々にギターからエレクトロニック・ミュージックへ振れている最近は、初心者向けのDJ機材が数多く登場するようになっており、最もシンプルかつ安価に済ませたいのなら、ベーシックなMIDIコントローラーとAbleton Live Liteだけで音楽制作を始めることができる。しかしそのような初心者の多くは、いずれはレコードのビートマッチの楽しさ(と苦しさ)に触れてみたいと考えている。PioneerのCDJシリーズはクラブ環境でデジタルミュージックをプレイする際のスタンダード機材だが、法外とも言える価格が設定されているため多くの若手DJたちには手が届かない存在で、世の中には数多くのジョグホイールで操作するデジタルコントローラーが出回っているものの、ヴァイナルをプレイする魅力は無視できない。このような状況で役立つのが、実用性・汎用性・価格を適切に組み合わせたデジタル・ヴァイナル・システム(Digital Vinyl System / DVS)だ。 DVSソリューションの2トップ - Native InstrumentsのTraktor ScratchとSeratoのScratch Live(Raneとの共同開発)- はDVSの世界で “陰陽” を成している。従来、ハウス&テクノ系DJは、多種多様なエフェクトと優秀なサンプリング&ループ機能、そして大きな議論を巻き起こしているシンク機能を備えているTraktor Scratchを重用してきたが、スクラッチ&ヒップホップ系DJはSeratoを重用しており、その安定したトラッキング機能と使いやすさ、シンプルなインターフェイスを好んできた。しかし、長い時間と共にこの2トップの境界線は音楽のスタイルと同様あやふやになってきており、それに伴って対応しているハードウェアや機能も変わってきている。たとえば、最近のSeratoにはシンク機能が備わっており、オリジナルを好んでいたユーザーの中には残念に感じている人もいる。 そして、ファイルマネージメントプログラムrekordboxとDJフレンドリーなターンテーブルの成功を受けて、Pioneerも独自のDVSソフトウェア(rekordbox DVS)を市場に送り込んでいる。これは無料のベーシックバージョンrekordboxのアドオンとして存在するrekordbox DJのアドオンとして販売されているソフトウェアだ。rekordbox DJが登場してからまだ日が浅く、筆者も資金的な問題からこれをCDJと組み合わせて使用した経験がなかったが、rekordbox DVSの登場によって手に届く距離に近づいた。 rekordbox DJとrekordbox DVSは、それぞれ200ユーロ程度(日本国内は税別15,000円・12,000円)で個別に購入できる。この価格はこれらに保存する音楽ファイルを手元で操作するハードウェアが同梱されていないことを考えるとやや高価に感じられるが、そこで登場するのがDJM250 MK2だ。販売価格350ユーロ(日本国内は税別36,852円)が設定されているこのDJミキサーは、表面上はPioneerが2011年に発売したDJM250のアップデートバージョンのように見える。DJM250 MK2は前モデルのルックスとフィーリングを踏襲し、PioneerのハイエンドモデルのDJミキサーに搭載されている機能のいくつかを引き継いだシンプルで堅牢な2チャンネルミキサーだが、重要なのは、rekordbox DJとrekordbox DVSが同梱されているという点だ。つまり、あとはrekordbox DVS専用コントロールヴァイナルのRB-VS1-Kを2枚購入するだけでDVSソリューションが手に入るのだ。
    オリジナルのDJM250は、PioneerのDJミキサーをシンプルかつ手頃な価格で楽しめる機材としてある程度の成功を収めた。親しみやすさが成功のカギだった。通常、クラブでは4チャンネルのDJMシリーズを使用するが、スペースや予算がない、またそこまで必要ではないと感じている人にとって、DJM250は大いに納得できる製品だったのだ。DJM250 MK2もこのロジックを引き継いでいるが、同時にラックマウントイヤーやフェーダースタート機能(この機能はほとんど使われなかったはずだ)など、オリジナルで奇妙に感じられたいくつかの機能を削除している。DJM250 MK2には、3バンドアイソレーター、独立したMICセクション、クロスフェーダーカーブセレクトスイッチ(残念なことにチャンネルフェーダーのセレクトスイッチは搭載されていない)、Magvelクロスフェーダー、パラメーター調整が可能なフィルター2基、そして一般的なトリムノブとレベルノブが備わっているが、嬉しいのはヘッドフォン出力が2系統用意されている点で、1/4’’プラグと3.5mmミニジャックが使用できるようになっている。1/4’’プラグへの変換アダプターは失くしがちなので、DJにとってこ配慮は “ライフセーバー” と言えるだろう。リアパネルはオリジナルと同様基本を押さえたレイアウトになっており、出力端子はMASTER2系統(XLR・1/4’’)、入力端子は各チャンネルにPHONOとLINEが1系統(RCA)、AUX1系統(RCA)、MIC用1/4’’(UNBALANCED)が備わっている。 MK2の目玉は、同じくリアパネルに配置されているUSB-Bポートだ。このミキサーにはサウンドカードが内蔵されているので、USB2.0ケーブルでラップトップと接続するだけで、rekordbox DJの全機能が使用できるようになる。また、MK2はサウンドの同時入出力に対応しているので、ミックスをラップトップにレコーディングしたり、ヴァイナルを取り込んでデジタル化したりすることも可能だ。この機能が搭載されているため、MK2の出力端子にはREC OUTが用意されていない。ハンディレコーダーへのレコーディングを好んでいる人はこの仕様をやや不満に思うかもしれないが、個人的にはrekordbox上へのダイレクトレコーディングはシンプルでハイクオリティなものに感じられた。サウンドカード内蔵のDJミキサーは数年前から出回っているが、基本的にはクラブ対応の高価な4チャンネルミキサーか、RaneやNative Instrumentsが販売している複雑なスクラッチミキサーだけだったので、低コストでrekordbox DJとシームレスに統合できるこのDJミキサーはかなりお得な製品と言えるだろう。現時点でMK2に最も近いライバル製品と言えるのはAllen & HeathのXone:23Cだが、このミキサーはサウンドカードを内蔵しているものの、Traktor、Serato、rekordboxに正式に対応しておらず、同梱されているMixvibes Cross LEのみに対応している。Mixvibes Cross LEは十分な機能を備えているがあまり出回っていないソフトウェアなので、業界トップレベルの製品とは言えない。また、Xone:23CはMK2より50ユーロほど高い。
    rekordbox DJのルックスと機能はSerato DJにかなり似ているが、Pioneer独特のスタイルが持ち込まれており、CDJシリーズで用いられている大量のインディケーター類が流用されている。たとえば、デッキやテンポ、ニードルポジションを示すインディケーター類は、CUE、PLAY、PAUSEなどの他のインディケーター類よりも分かりやすくなっている。基本的なレイアウトはSerato DJと同じで、5つの表示オプションが用意されている。波形は垂直表示か水平表示が切替可能で、それぞれデッキ数を2台か4台に変更できる(ここまでで4種類)。あとひとつはデッキとトラックライブラリを最小化して表示するブラウズモードだ。また、rekordbox DVSのためのセットアップも非常に簡単で、シンプルで正確なオートキャリブレーションによって数秒でプレイ可能な状態になる。Absolute、Relative、Internalの各プレイモードも従来通り用意されており、オプションのシンクコントロールも正確だ。また、PioneerのフラッグシップモデルのDJミキサーに備わっている内臓エフェクトも全て備わっており、サウンドクオリティもほぼ同じだ。ただし、MK2にはMIDIアサイン可能なコントロールが備わっていないため、これらを最大限活用するためにはMIDIコントローラーを別途用意する必要がある。 トラックのプレイバックもスムースでほとんどミスはない。通常、筆者はSerato Scratch DJをRane SL3に繋いでDVSセットアップとして使用しているが、このセットアップでは、2013年モデルのMacBook Pro内に保存されているオーディオファイルが奇妙なドロップアウトやスキップをすることがある。しかし、MK2ではこのような現象は起きない。また、HOT CUEもシームレスに統合されており、各デッキに備わっている8個のパッドを使用すれば、ワンタッチでCUEポイントの作成・削除・CUEポイント間の移動が行える。尚、QUANTIZEをオンにしておけば、ビートに正確にマッチしてくれる。このパッドにはPAD FX(あらかじめ決められてはいるがエディット可能なエフェクトの組み合わせをワンタッチで呼び出せる機能)、SLICER(SLIPモードを一時的に可能にするビートループ機能)、BEAT JUMP(指定した拍の長さで再生位置を前後に移動する機能)など、他にも様々なオプションが備わっている。また、64個のスロットが用意されたシンク可能なサンプラーセクションや、パターンのレコーディング・プレイバックオプションも用意されている。ただし、これらの豊富な機能類はrekordbox DVSのシンプルな操作性を相殺してしまうので、rekordbox DVS使用時にはやや余計なものに感じるかもしれない。 また、他にもいくつかの小さな問題がある。たとえば、PERFORMANCEモードには関連するトラックとしてマークできるオプションが存在しない。このオプションはEXPORTモードでのみ使用可能だ。現状では、PERFORMANCEモードでミックスしているトラックを関連するトラックとしてマークしたい場合、一度EXPORTモードに入る必要があるので、この点が解消されれば有り難い。また、正しくセットアップしても、ビートグリッドが正確にマッチしない時もある。たとえば、画面上の両トラックが完全にロックしているのに、片方のトラックのサウンドがややずれて聴こえる時があった。しかし、目ではなく耳を頼りにミックスすれば何の問題もない。 ミキサー本体に関しては、フィルターのレゾナンスがコントロールできるオプションが用意されれば非常に有り難い。Pioneerはごく最近までコントロールオプションが存在しない強烈なレゾナンスフィルターに苦しめられてきた。この仕様は特定のスタイルでは何の問題にもならないが、丁寧なスタイルを好むDJにとってはほとんど意味がないものだった。しかし、今回のフィルターもすぐにそのような過激なサウンドに変わってしまう。フィルターをLOW側に振り切っている時は、フィルターを使用しているのかEQで低域をカットしているのか区別がつかないほどおとなしいが、ほんの少しでもHI側に動かすとサウンドが大きく変わってしまうため、微妙な変化を加えられない。HI側に振り切ると自己発振さえする。こう書いてしまうとなんとも酷いフィルターに思えるかもしれないが、正しく使えば、面白いリズミックなサウンドを生み出すことが可能だ。このフィルターセクションで使用されているタームはやや大雑把で、困惑を憶えてしまう。Pioneerがこのフィルターセクションをハイエンドモデルから流用しているのは確かだが、ハイエンドモデルには、PARAMETERやSOUND COLOR FXなどの曖昧なタームを下から支えてくれる多種多様なエフェクトが備わっていた。しかし、MK2にはレゾナンスコントロール付きのハイパス / ローパスフィルターしか備わっていない。機能や動作をより明確に説明してくれるタームが使われれば、新規ユーザーのユーザーエクスペリエンスは大幅に向上するだろう。 ただし、このような問題は微々たるもので、現時点でこの低価格のDJミキサーに対抗できるライバル製品はいない。DJM250 MK2は、ライバル企業が高価格でしか提供できていない “豊富な機能を備えたハイクオリティなハードウェアとDVSソフトウェアの世界への入り口” を親しみやすい形で提供している。また、ひとつのソフトウェアでデジタルミュージックを自宅とクラブの両方で管理・準備・プレイできる能力も、我々にとっては恩恵と言えるものだ。徐々に進行しているPioneerによるDJブースの支配を “悪” としている人もいるが、そのおかげでDJM250 MK2のような安価で楽しくて便利な製品が生まれているのだとしたら、そう断言してしまうのは難しい。 Ratings: Cost: 4.7 Versatility: 3.6 Ease of use: 4.1 Sound: 3.8
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