Organik Festival 2017

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  • 今年のOrganik Festivalの2日目の夜、筆者は自分が今まで経験してきた中で、最も興味深いダンスフロアでの会話の中にいることに気が付いた。北京でShadowPlayというパーティーを主催するプロモーターMeng Mengは、東アジアにおけるテクノイベントの根底に、禅というこの地域ならではの文化的なDNAがどのように反映されているかについて、彼女の視点から語ってくれた。西欧のパーティーと彼らがブックするアーティストはテクノのヘヴィーな面を強調する傾向にあるが、東洋のプロモーターはよりヒプノティックでスプリチュアルなサウンドを好む。超越状態を示唆し、こうしたイベントが開催場所に選ぶ印象的な野外のロケーションで聴いた時には自然とのつながりが増大するような、そんなサウンドだ。 あの瞬間、そのセオリーを否定することはかなり難しかった。台湾拠点のDJ Diskonnectedは、さざめき、起伏のあるリズムでダンスフロアを虜にし、彼がAvalon Emersonの"The Frontier"を投下した時に盛り上がりは最高潮に達した。ライティングは我々を取り囲む環境を一変させるというよりも明るく照らす役目を果たしており、スポットライトが木の天蓋の隙間から差し込んだり、崖を照らし出していた。さもなければ、そこは完全な暗闇だっただろう。音楽に合わせてキャンバス地の天体の光が揺れ、そのうちの1つはダンスフロアからも見える小川を漂っており、まるで月が地平線近くにあるような錯覚を生み出していた。
    太陽の光が我々がいる海沿いの景色を照らし始める頃に、MNML SSGS主宰のChris SSGが、3時間に及ぶアンビエントセットをスタート。ダンスフロアの後方から聴く彼のビビットなトーンは、小鳥たちのさえずりや打ち寄せる波の音と上手い具合に調和していた。数十人のクラウドたちは会場内の小高い場所にある崖に陣取り、右手には太平洋から上る太陽、正面奥には霧の中にそびえ立つ崖、そして左手には、キャンプサイトからメインステージを含むフェスティバルの会場全体。そんな素晴らしい景観を愛でながら、流れる音楽を聴いていた。 Organikの会場は、台湾東部の海沿いに位置する家族向けのキャンプ場。今年で6年目を迎える同フェスティバルを手掛けるのは、台湾のダンスミュージックシーンにおける重要クルーSmoke Machineだ(彼らは素晴らしいポッドキャストシリーズも展開している)。ハウスやディスコのアクトもいないわけではないが(今年はMassimiliano Pagliaraが出演した)、プログラムの中心となっているのはテクノであり、アンビエントも多く含まれている。このようなラインナップと『ジュラシックパーク』を連想させるロケーションのコンビネーションは、日本のLabyrinthの比較対象のようにも思えるが、実際のところはFreerotationもしくはNachtdigitalのスピリットに近いものがある。本格的なフェスティバルというよりも、出演アーティストが週末中たむろし、オーガナイザーもほとんどの時間をダンスフロアで過ごすような、こじんまりとした3日間に渡るレイヴだ。オーガナイズ面での基本的な部分や(主催側はボトル入りの水の持ち込みを禁止したにも関わらず、焼け付くような暑さだった土曜の朝、少しの間水が品切れになるという事態が起こった)、ラインナップの多様性(今年ラインナップされていた女性アーティストは、小さなステージの早い時間にプレイしたJing、1人だけだった)に関してなど、まだまだ改善の余地はある。しかし、そのロケーション、クラウド、そして音楽全てを考慮した上で、Organikは現在ある小規模のフェスティバルの中でも最も素晴らしいイベントの1つといっても過言ではないだろう。
    Organikが販売するチケットはほんの1,000枚少しのみだが、その場にいるとそれ以上に小さな印象を受ける。会場には2つのダンスフロアがある。まずはBlue Starステージ。ビーチから上った場所に建つバンガローで、東アジア拠点のアーティストをラインナップする。そして、木とロープ、ヤシの葉などで囲われたOrganikステージでは、 海を背にしたDJ/ライブアクトが、踊るクラウドと向き合う。このダンスフロアは、数年前に大型の台風に襲われるまでは芝生だったそうだ。しかし現在は、柔らかな黒い砂で全面が覆われ、所々がなだらかな傾斜になっている為、しばらくそこで踊っているとフラついてくることもある。だが、気持ち悪くなるわけではなく、良い意味でだ。幻覚的な音楽がかかっている時は特に。 そうした瞬間の多くは、Wata Igarashiが渦巻くようなライブパフォーマンス、そしてDJ Nobuがコズミックな(そしていくぶん控えめな)ピークタイムのDJセットを披露した初日の夜に起こった。フェスティバルのオープニングの時間帯には、The Bunker New YorkのBryan Kasenicもまた素晴らしいセットをプレイしたが、会場に到着するクラウドたちのざわめきを感じ取りながら、それに応じてObjekt "Theme From Q"のようなパーティースターターと、彼が得意とするディープテクノのバランスを上手く取っていた。
    今年のOrganikにはヘヴィーな瞬間もあった。スペーシーで地味なテクノが数時間続いた後に登壇したSteve Bicknellは、Joey Beltram "Energy Flash"や、Claude YoungによるBrother From Another Planet名義の"Planet Earth"といった激しいレイヴクラシックを放った。しかし大部分のアーティストは、ドリーミーなヴァイブに向かっていた。土曜の午後、サンセットの時間帯を担当したS.A.M.は、正に彼の作品のように、滑らかで、活き活きとしていて、かつ瑞々しくポエティックな、機能性と直観力のバランスが巧妙に保たれたプレイをしてみせた。そしてAteqのライブセットは、黄昏時の雰囲気とバッチリ合い、3ヶ月に及ぶワールドツアーPlanet Gieglingの素晴らしい締め括りにもなった。 夜になるとVoiskiがライブセットで登場。彼のレコード同様、迫り来るエネルギーが感じられた。翌朝彼はDJとして再びブースに立ったが、今度は打って変わって優美なサウンドで、Chris SSGのアンビエントを継いでエレガントなレフトフィールドテクノを展開していった。
    ヴァイブを落ち着かせるタスクを与えられたChris SSGとVoiskiのプレイによって、人々は休憩を取ることができ、起きている人たちにとってはうっすらとしたサウンドトラックとなった。ヴァイブを呼び戻す役を担ったのはDorisburg。午前10時にスタートした彼は、美しいテクスチャと完ぺきに整えられたグルーヴで、今回のフェスティバルで最も素晴らしいセットを披露。しかし残念ながら、暑さのせいもあってダンスフロアはガラガラだった。この週末で初めての雲一つない空から太陽が照りつけていた為、疲れたレイバーたちにとっては日陰のないメインステージが生命の危機のようにすら思えたのだ。この隙に、フェスティバルが始まってから初めてつかの間の睡眠を取ったというクラウドも少なくなかっただろう(これもまた暑さのせいかもしれないが、土曜の朝にはキャンプサイト付近で、信じられないほど残念なカラオケセッションが繰り広げられていた)。 DJ Dustinがブースに現れた頃にはダンスフロアは満員となり、Dorisburgに送られた大喝采は、いかに多くの人たちが日陰から彼のセットを楽しんでいたのかを物語っていた。Gieglingを主宰するDustinは、最初のレコード(Omar-Sの"The Further You Look - The Less You Will See")に針を落とした瞬間から歓声を浴びた。このフェスティバルにおいて最後のセットとなったことから、フロアには爽やかな風と共にどこか切ない雰囲気が漂い始め、Gieglingファミリーによる柔らかなサウンド(TraumprinzやKettenkarussellによる未発表曲も含まれていたようだ)や、Adryiano "On My Side"のようなに両手を上げたくなるハウストラックにとっては良いバックグラウンドとなった。最後の30分になると、そこにいた皆が突然ヤシの葉を手に持ち(詳細は最後まで分からなかったが、前もって準備されていたスタントだと思われる)、Soul Capsule "Lady Science (NYC Sunrise)"やJean Pierre Mirouze "Sexopolis"に合わせて揺らしていた。大きなアンコールの声に応じてDustinが選んだ1枚は、The Flamingosの"I Only Have Eyes For You"。その音を聴きながら、我々は潮風が木々を揺らすように、体をゆっくりと揺らしながら踊った。
    Photo credit / Cedric Diradourian