Ion Ludwig and Nicola Kazimir in Tokyo

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  • ここ最近、本格的に冬の寒さを痛感するようになった東京。それでも夜の道玄坂は相変わらずネオンライトと酔っ払いに溢れ、金曜日になるといつもの週末の光景がみられる。深夜1時半を回った頃、ベニューに到着しエントランスをくぐり抜けると、そこには馴染みの光景がありながらも、筆者の知る週末のContactとは少し違った空気を感じられた。日本では、ある程度の知名度とキャリアを持ったアーティストが週末のラインナップを占める割合いが多く、特にこのベニューは例によってDixonやFrancois K、そしてBen Klockなどといったベテラン大物アーティストがプレイをする機会が多い。その中でも今回のパーティーのラインナップのような、ヨーロッパの中でもアンダーグラウンド・シーンを支えるアーティストのブッキングは貴重で、この日のContactは“週末のクラブで踊る”という体験が目的のパーティー感よりも、どこかアンダーカルチャーで、音楽のクオリティーを大切にする熱心なエネルギーをフロアから感じられた。 「Hubbleのプレイはさっき終わったところ」と残念な知らせを友人から耳にするも、気を取り直してStudio Xへ足を向ける。メインアクトの1人であるIon Ludwigのライブが始まったところだった。序盤のバランスを崩すことのない安定感のあるミニマルサウンドは、やや単調で少し退屈に感じる部分もあったと同時に、ダークで湿り気のあるそのサウンドは、フロアを徐々にそして確実に温め続け、3時を過ぎた頃にはややディープがかったハウスに近づきつつも、徐々にグルーヴ感の増したミニマルテクノでフロアを盛り上げた。さらに中盤から終盤にかけてのバウンシーで重みのあるテクスチャーが印象的な展開は、この夜一番のピークタイムをつくり上げていた。 休憩を挟みにバーへ寄ると、隣接したフロアContactから聞こえる音楽に耳を奪われる。Nicola KazimirによるDJセットは、筆者にとってこの日一番のハイライトとなった。スイスのレーベル兼アートコレクティブLes Pointsでも活躍するこの若手アーティストは、モダンなミニマルハウスとエレクトロを交えたスタイルを披露。型にはまることのないスペーシーでポップなアシッドサウンドと、グルーヴィーなテックハウスが融合されたユニークな選曲の数々からは、間違いなく彼の世界観を感じることができ、終始飽きることなく楽しんで踊ることができた。あっという間に終了時刻を迎えたように感じたが、その後もなお、しばし余韻に浸る自分がいた。メインフロアのラストを飾ったのは、IonやNicola等、この手のサウンドと共鳴する東京拠点のDJの一人であり、自らもパーティーDaze Of Phazeを主宰しているKABUTO。Ionのライブから引き継いだ重心の低いグルーヴに、さらなるドライブ感を加えたようなセットを展開した。 ベニューの大きさと来場者数のギャップにより、フロアが閑散としていたのが若干目立った一方で、出演アーティストのファンや、このイベントのためにやってきたコアな客層が特に目立ったことも印象的だ。特にIon Ludwigのライブでは音に深く浸る人々の他、全体の客層は30代の落ち着いたオーディエンスが多かったように見受けられた。会場の外に出るとまだ薄暗く、道行く人の少ない朝は、ここが渋谷だということを一瞬忘れかける。東京・渋谷の繁華街に位置する大箱で、今回のようなラインナップのパーティーに参加したのはある意味貴重な体験だと感じた一方、ミニマル・ダンスミュージックの根強い人気と、そこから派生するサウンドの面白さと奥深さにあらためて感銘を受け、今後の東京のクラブシーンへのさらなる期待感が生まれた一夜だった。
RA