Thomas Brinkmann - A 1000 Keys

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  • 『A 1000 Keys』のライナーノーツで、Thomas BrinkmannはConlon Nancarrowに捧げる作品であると述べているが、わざわざそのことに触れなくてもよかったのではないだろうか。人間には複雑すぎるため自動ピアノで演奏される作品がほとんどという、20世紀の先駆的なコンポーザーからの影響は収録の18曲を通じて明らかに表れているからだ。機械化された組立ラインを流れているかのように叩き付けられる反復するピアノコードは、「グランドピアノの音色をバイナリコードに変換することで、その主要部分を0と1で再構築する」と説明されたプロセスに沿っている。 そうして生まれたレコードはBrinkmannによる作品の中で最も荒々しいものかもしれない。『A 1000 Keys』はうるさいというわけではないのだが、激しく叩き付けられるピアノには執拗な暴力性がある。Brinkmannは耐久テスト用(もしくは拷問用)に楽曲制作を行っているかのように、長い時間をかけてトラックの多くを打ちのめしている。彼はこれまでにも多くのプロジェクトで音楽から人間的要素を好んで切り離しているような印象だった。『A 1000 Keys』の冷ややかでロボット的なオーラもこの流れにあてはまり、ときとして非人間的どころか非人道的になることすらある。 情け容赦ない印象ではあるものの、この音楽はスタジオで反復を放置しておくと何が起こるのかを面白く提示したものだ。Brinkmannの攻撃的アレンジには興味深いバリエーションがあるのだが、その差異の多くは非常に細かいため、神経麻痺しそうなほどの単調さが幻聴を引き起こしているような印象だ。例えば"SYD"では躍動するコードが混沌としたフリージャズのようにピークに達し、"KGD"ではSteve Reichの曲が鏡の間で演奏されているかのように目にも止まらぬ高速ピアノによって次々と轟く倍音が鳴らされる(各トラックのタイトルは国際空港の空港コードとなっている)。 『A 1000 Keys』には、普段のBrinkmannの作風から離れてもっと空間的になっている場面もある。例えば"SFO"や"HEL"は無邪気に泡立つ電子音による簡素なトラックであり、"TLV"はアルゴリズム生成されたドローンのようなトラックだ。しかし、彼が作る非ピアノ曲の多くは攻撃的かつ挑発的で、とりわけ、執拗に解体爆破が行われるラストトラック"KIX"でそれが顕著だ。聞いていて消耗させられるトラックではあるが、ひとつのアイデアで首尾一貫した本作に相応しい締めくくりとなっている。
  • Tracklist
      01. PSA 02. LHR 03. SYD 04. VIE 05. JFK 06. KGD 07. TLV 08. TBS 09. SFO 10. MEX 11. HEL 12. CGN 13. LAS 14. YWG 15. LED 16. NRT 17. MAD 18. KIX
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