WWW X Opening Series: Floating Points Live

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  • ドラマチックで繊細、少しもやがかかったような現代的エクスペリメンタル・ジャズにクラシカルなローズピアノがふりかかる。ダブステップのような2ビートから、ディスコやディープハウスなどのクラブミュージック的要素がありながらも、統一感のあるサウンドが融合されたSam ShepardsことFloating Pointsが創りだす音楽はとても印象的で、聴くたびに味がでるようだ。 今回会場となったWWW Xは、今年9月にオープンしたばかりの600-700人規模のライブハウスである。同じビルの地下階にある1号店のWWWよりもひと回り大きく、ステージとフロアの距離が近いフラットな会場は、つくりとしてはダンスフロアとしても機能すると思った。スピーカーにはL-Acousticsを採用しており、音はクリアかつ確かな音圧を感じる。チケットは前売りの時点で完売となり、その様子からもFloating Pointsの日本での人気っぷりがうかがえる。フロアに到着したときには既に観客は満員で、人の波に乗りバンドが見える位置までなんとか到達することができた。1曲目の演奏がはじまると同時に、僅かな人の声も許されないようなピンとはったフロアの空気で会場は緊張感に包まれた。 今回のライブでは、昨年11月 - 約1年前にリリースした最新アルバム『Elaenia』を中心としたセットを披露。序盤の“Silhouettes (I, II & III)”では繊細で切ないメロディーの中に力強さを感じさせ、アレンジを加えたライブはまるでジャズオーケストラを観ているかのような、感動的瞬間をいくつか味わうことができた。中盤を向かえると、今年7月にリリースされた“Kuiper”をプレイ。Elaeniaの続編とも思えるような一貫性のあるコードは、約20分の間まるで映画を観ているかのような気分にさせた。また終盤には同じく雰囲気が類似した、Samが「New song...」と紹介した曲もいくつか披露した。以前インタビューでSam Shepardが発言していた以下の言葉が納得できた - 「『Elaenia』に収録されなかった楽曲も沢山あるのだ」
    それぞれの曲は素晴らしく申し分ないものの、アルバムの構成を期待していたためにセットリスト全体のバランスにはどこか違和感を感じてしまったが、一方で新曲を織り交ぜた今回のオリジナルセットを聞けたのは特別な機会だった。また、筆者は今年2月にロンドンで行われたライブに参戦したのだが、11人のオーケストラ奏者を交えたバンド構成、そして会場は2000人規模とスケールの大きい内容だった。その体験を踏まえての感想とはなるが、どこかミニマルながらも壮大な彼らの世界感は、会場のキャパシティーと比例して伝わるものもあると感じた。一点、最後の楽曲の途中から演奏が終わってからも鳴り続いていた数分のノイズは、残念ながらライブの良い締めくくりとは言えなかった。そのため完全に音に酔いしれることができなかったものの、暗闇の中バックグラウンドに描かれるレーザー・ペインティングが創りだす異空間や、安定感のある繊細なドラムとグルーヴィーなベース音、そしてFloating Points独特の空気と世界感は美しく、断固として素晴らしいものであったことには違いない。また、次回のリリース作品への期待が高まったと共に一つ確信的に感じたのは、Floating Pointsはこれからもさらに進化していくだろう、ということ。そして今回のライブはその序盤のようなものであったということだ。
    Photo credit: Ray Otabe
RA