House Of Dad - House Of Dad

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  • マウス・トランペット(声帯を使ってトランペットに似た音を奏でる行為)のソロ演奏で終わる曲を聞いたことはあるだろうか? もしくは、トイレの排水音とみずみずしいパッドを組み合わせた曲はどうだろうか? その答えはおそらく「ノー」だろう。そのような気の抜けた音実験はハウスやアンビエントの世界では敬遠されがちだ。しかし、Andras FoxことAndy Wilsonは新たな名義House Of Dadによる同名のファーストアルバムで、何の問題もなく自身のイタズラ好きな傾向を披露している。House Of Dadはその名前の通り、自宅のドライブウェイをホースで掃除するのが好きだった配管工の父親に対するオマージュだと言われており、親父ギャグ的要素を含む親父ハウスというアイデアに挑んでいる。しかし、そうした荒唐無稽な音楽的好みよりも鮮烈なのは、そうした要素を素晴らしいグルーヴ感や気取らない美しさと上手く均衡させているところだ。トラックごとに奇妙になっていくものの、純粋な意味での魅力は決して失われていないのだ。 Wilsonの繊細な音楽性とうつろうダンスサウンドがそれ以外の要素を凌駕していた『Overworld』や『Embassy Cafe』といった作品から本作にも確かに引き継がれているのは、気品を感じさせるアレンジだ。そうしたアイデアが奇抜な姿勢とファンキーに跳ねるグルーヴと一緒に持ち込まれると、その対比はさらに魅力的なものになる。そして本作の新たな一面として、どのトラックも明瞭かつ高い精度で制作されていることが挙げられる。"Water Diviner"や"Hard Working Man"といったトラックでは、Wilsonダイナミックな一面をが新たに見せている。前者のトラックでは、旋回するシンセとポップロックダンス・スタイルのビートをシームレスに浮遊し、後者では滑らかなドラムパターンや冷ややかなコード、そして、悲しげなクラリネットと共に至る所でトラックタイトル通りのサンプルネタが翻っている。こうしたバランス感覚からそれほど説得力が伝わってこないのが"P.O.E.T.S. Day"だ。このトラックでは、スタンダードな4つ打ちのリズムに溌剌としたストリングスのスタブとニューエイジ的なチャイムが組み合わされている。気持ちのこもった屈託のないアレンジは確かに魅力的で、多様性のある『House Of Dad』に相応しいラストトラックなのだが、他の収録曲とは異なり、楽しい気分にさせられる驚きの要素に乏しい。 "Stereo Dunnies"でも同様のことが言えるだろう。しかし、ダウンテンポであることで際立っている部分がある。鋭くひび割れたスネアや豪快な低音のとどろきにかけられるルームリヴァーブ、左右に気だるく行き交うウワものシンセ、そして、トイレの排水音など、Wilsonが十分なスペースを取ってトラックをアレンジすることで、自然でありながら尖っている多様かつ豊かなサウンドが生まれている。そしてすべてが非常に柔らかく移行しているため、5分半を過ぎてビートが消えていくと、解れていくトラックの中で毎回異なる響きをもたらすサウンドに安らぎを感じずにはいられなくなる。WilsonはRAのBreaking Throughにて次のように語っている(英語サイト)。「自分が関わっていないカルチャーからネタをサンプリングしたり、自分よりも遥かに上手くサンプリングしたりする人がいるのに、僕が同じようにサンプリングするのは変だと感じるようになってきた」。『House Of Dad』ではこの問題に真っ向から取り組んでいる。個人的なルーツに立ち返ってインスピレーションを求め、どんなに奇妙であろうとも自分の直感を解き放つことで、Wilsonは自身の音楽が発展していける理想的な居場所を築いたのである。
  • Tracklist
      01. Entrance to the Garage 02. Water Diviner 03. Hard Working Man 04. Stereo Dunnies 05. Roof Metal Corrosion 06. P.O.E.T.S. Day
RA