Dorisburg - Irrbloss

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  • 昨年、Alexander Bergが参加する二人組ユニットGenius Of Timeの活動は彼のソロプロジェクトDorisburgによって影をひそめることになった。高校のときからの仲間であるNils Kroghと結成したGenius Of Timeは、パンチの効いたすがすがしいジャム作品一連や親しみやすいライブショウにより、クラブやフェスティバルで人気を博していた。同ユニットは昨年も引き続き着実にツアーを行っていたが、2014年の夏からリリースが止まっていた。一方、Dorisburgがこの2年で発表したレコードは6枚を数える。John TalabotのHivern Discsから発表する最新作『Irrbloss』を含めれば7枚となる。 アルバム、もしくは、2枚組EP(共に英語サイト)、『Irrbloss』がそのいずれであるにせよ、スウェーデン人のBergにとって最も注目を集める大作であり、Talabotとの音楽関係と強い友情から生まれた作品であることに変わりはない。同時に『Irrbloss』はBergが最も大胆にアーティスト性を打ち出している作品でもある。仮にDorisburgが独自のスタイルを明確なかたちで持っていなかったとするなら、本作は彼のようなサウンドの作り手は他にはいないことを高らかに証明している。豊かな雰囲気、つまり、万華鏡のような独特のシンセ使いが鮮烈な風景を描き出す本作は他とは一線を画している。Aniaraからの初期作品で見せたトリッピーでメロディアスな要素をこの数年で充実させたBergは、そこから高解像度なスタイルを打ち出したのだ。 2014年にNorthern Electronicsから発表されたEP「Splade」以降のBergの全作品と同様、『Irrbloss』を彩っているのは異世界の感覚だ。それにより最初から最後まで聞き甲斐のある作品になっている。"Insvept"の春めいた麗らかな雰囲気から"Votiv"のどんよりとした陰鬱へ急に変化するという、音楽のムードが大きく揺らぐ場面もあるが、作品全体に軽やかな霧がかかっており、魅力的な一体感が生まれている。Bergの場合、テクスチャーとサウンドデザインを強調することで一体感を実現している。昨年彼が語っているように、彼は自身のトラックを彼方まで広がる風景として可視化することを好む。それにより彼の求める感覚を引き立てるサウンドを形作ることができるようだ。『Irrbloss』のどの収録曲を聞いても、その制作過程が行われていることが分かる。特筆したいのはくぐもった霧笛のような音と甲高いサイレンが絡み合う"Irrbloss"だ。音色やピッチが異なっているにも関わらず、彼方から聞こえてくるメランコリックな感覚によりふたつのサウンドはよりタイトに結び付いていき、最終的に一体となり引き離せなくなる。 しかし、意識を没頭できる作品だからといって完全に仕上がった作品とは限らない。本作ではDorisburgのある一面が完全に欠けている。その一面は彼の良作に必要なものだと主張する人もいるだろう。恍惚とした電子音と得も言われぬサウンドスケープに加えて、Bergはグルーヴのマスターでもある。2013年の"Smuts"や2014年の"Devotion"といったトラックのように、彼がキックとベースラインを組み合わせるとキラートラックが生まれる。一方『Irrbloss』はリズムではなくメロディが見せ場を作っており、繊細で瑞々しい雰囲気が漂っている。その点で言えば"Kassiopeia"と"Cirkla"は突出している。どちらのトラックにもDorisburgが確立してきた耳に残る軽やかなサウンドが用いられている。後者は特に酩酊感があり、鮮明な輝きが吹き付ける心地よい風の中を揺らいでいる。 Irrblossとはスウェーデン語でウィルオウィスプ(夜の湿地帯で旅人の前に出没する火の玉のようなともしび)の意味だ。このタイトルはBergの求める雰囲気を知る重要な手がかりとなっている。彼は濃厚で不気味な雰囲気を好む性格を落とし込み、クラブでの機能性よりもリスニング体験を優先させた作品を制作したかったようだ。本作は意欲的な試みであり、彼は大部分において見事にその試みに成功している。とはいえ、この新たな一面と以前の一面がミックスされたDorisburgを望むファンも中にはいるかもしれない。
  • Tracklist
      A1 Irrbloss A2 Insvept B1 Votiv B2 Kassiopeia C1 Gloson C2 Gripen D1 Sagofabrik D2 Cirkla