Prins Thomas - Principe Del Norte

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  • もしPrins Thomasが00年代半ばに牽引した"コズミックディスコ"のサウンドからそれほど距離を置いていないとするなら、少なくとも彼はスペーシーなエレクトロニックミュージック上で独自のバリエーションを制作してきたと言えるだろう。彼はアルバムの発表ごとにダンスフロアからますます離れた場所を漂うようになっており、サイケデリックロックとコズミッシェの中間に位置する場所を模索している。2010年の自身の名前を関したアルバム(英語サイト)から2014年の『III』に至るまで、オスロ出身の彼は尺の長いまどろんだ作品を作り出すことに専念してきた。 そのため、Thomas Moen Hermansen(Prins Thomas)が最新アルバムでほぼアンビエントな音楽を生み出すようになったことは、決して驚きではない。初めて自身のレーベルFull PuppではなくSmalltown Supersoundから発表となるアルバム『Principe Del Norte』は、The Orb、Black Dog、The KLFといった90年代のIDMやアンビエントハウスに影響を受けているらしい。しかしそのサウンドは、長らくHermansenが参照してきたManuel Göttsching、Michael Rother、Klaus Schulzeのようなコズミッシェやクラウトロックのアーティストたちとの繋がりをより感じさせる。 延べ100分近くに及ぶ9曲のトラックを収めた『Principe Del Norte』は個別に焦点を当てることで最も魅力を発揮する。柔らかなドローンシンセから現れて徐々に静かな不協和音へと変化していくギターのように、"B"では薄暗いトラック上を楽器音が漂いながら消えていく。躍動する低域とくぐもった電子音によって眠たげにスタートする"A2"は、ファンキーなオルガンにかき混ぜられて活き活きとし始める。"A1"の序盤で使われるアルペジオはJean Michel-Jarreのそれと同じように大空を駆け巡るが、すぐに次々と押し寄せるシンセのメロディによって飲み込まれていく。"D"は雷雨が吹き荒れる中、小さく温もりのある場所にいるようなサウンドだ。彼方から轟きが聞こえると、Hermansenによる優雅なギターサウンドが奏でられ始める。 アルバムの後半ではPrins Thomasのビート指向が存分に表れている。坦々としたドラムロール、主張力の強い低域、熱狂性を帯びていくシンセパターンによってしっかりと組まれた"E"は本作で初めて体を動かされると思うトラックかもしれない。それほど活気に溢れているわけではないが、ついついノッてしまうトラックだ。同様に"F"もダンスフロアに焦点を据えており、澱んだベースラインが2分間に渡って展開したあと、軽やかなギターと毛羽立った電子音が加えられる。"G"にいたっては晴々しい雰囲気のもと、テクノのように力強いビートが打ち付けられている。 こうしたゆるやかで魅力的な動きにもかかわらず、『Principe Del Norte』が一番素晴らしいのは哀愁を帯び、調子が抑えられている雰囲気のときだ。Hermansenが重ね合わせた楽器音を聞いていると、時折、シンプルなリズムでさえ気になってしまうことがある。シンセ、ギター、エフェクトによる酩酊感のある組み合わせや、特有の広々とした感覚によって生まれるビートレスの音楽の中に彼が見出す明瞭さこそ、本作の強い魅力と成熟度に繋がっている。全体を通じて影響元のアーティストや類似点を見つけることもできるが、『Principe Del Norte』がこれまでで最も特徴的で充実感の得られるHermansenの作品であることに変わりはない。
  • Tracklist
      01. A1 02. A2 03. B 04. C 05. D 06. E 07. F 08. G 09. H