Moodymann - DJ-Kicks

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  • MoodymannのDJに対するアプローチは独特だ。彼のセットは地元デトロイトとアフリカ系アメリカ人の全音楽史をカバーする。ヒップホップ、ソウル、ディスコ、ハウス、テクノ、ニューウェーブを影響として挙げるDJは数多くいるだろうが、そうした音楽すべてをひとつのセットに詰め込もうとする人はなかなかいない。DJブースにいるときの彼は実質、もうひとりのKenny Dixon Juniorであり、複雑な人格をしている。マスクをつけたり、幕の後ろに隠れたりして自分の顔を明かさないまま、完全にオーディエンスと距離を取るときもあれば、マイクを使って冗談めいたパーティー実況を行って喜んで注目の的になるときもある(英語サイト)。あるときはローラースケート場で自分の写真が施されたTシャツの販売を促すためにセットの途中で彼がダンスフロアに加わることもあった。ほとんどの場合、彼はみんなが楽しめる音楽をプレイするが、その場の状況や序盤のDJセットにわざと抗っている印象のときもある。いずれにせよ、彼のスタイルは完全に独特だ。 Moodymannは自分の環境を代弁する音楽をプレイすると頻繁に口にしている。あるインタビューで彼は自分のImpalaで何度も聞いている音楽を主にプレイすると語っていた(英語サイト)。「デトロイトをドライブするのに最高の音楽をプレイする」という彼のアイデアはミックスアルバムに打ってつけだと主張する人がいるかもしれない。30年近いキャリアにもかかわらず、Moodymannにとって『DJ-Kicks』が初めてのミックス作品だ。自身のレーベルMahoganiでミックスに挑んだこともあったが、あれはヒット作品を集めたような内容だった。今回のようにミックス作品を発表するために、彼には長い時間が必要だったのかもしれない。しかし『DJ-Kicks』のクオリティにはそれだけ待つ価値があったと感じさせられる。 30曲に及ぶトラックリストはボリューム満点だが、そこには切羽詰まっている感覚が一切ない。その理由の一部は、慌ただしくない軽快なペースのミックスを実現するためにMoodymannが使用している11曲のリエディットだ。最初の1時間は主に頭を上下に動かしたくなるスモーキーなJay Dilla流ヒップホップビーツが続く。Andrés、Platinum Pied Pipers、Danny Brownの関係アーティストDopeheadなど、地元デトロイト勢の作品も収録されている。それによってミックスの基礎部分を固めながら奇妙な展開をつけていく余地が生まれている。Triogo、Flying Lotus、Andreya Trianaの"Tea Leaf Dancers"といったアフリカンファンク、José Gonzalesによるフォーク風ギター、そして、ベルリンのDaniel Bortzによるハウスもミックスされている。イメージ上、こうした選曲がひとつにまとまるわけがないのだが、議論の余地がないほどしっかりとまとまっているのはひとえにMoodymannの功績だ。 50分をマークする頃になると、ミックスは突如ソウルフルなハウスへと進路を変更する。Kings Of TomorrowやJoeski(ディーバの歌声をメインに据えたスムーズなハウスを今なお制作しているふたり)といった名前は2016年においても古びていないのかもしれない。彼らのトラックが別のミックスで使われていたなら、的外れに終わる可能性がある。しかし、本作ではマイナーなフューチャージャズと隣り合わせで使われることで見事なインパクトが生まれている。さらに、今回の『DJ-Kicks』の大部分にも言えることだが、こうした楽曲はバーゲンコーナーから引き抜かれたレコードのように思える。これまでMoodymannは分かりやすい話題のトラックではなく、主に少数のフォロワーしかいないアーティストの隠れた名作をプレイしてきた。そのため、今回のミックスには嫉妬したくなるほどの個性があるのだ。 60分を過ぎると実に奇妙な様相を呈し始める。1984年にレコーディングされたAnne Clarkの"Our Darkness"は、凍てつくニューウェーブシンセと激しい訛りの不気味な語り声をミックスしたトラックだ。原曲自体が変わったトラックなのだが、今回のバージョンは2012年にライブレコーディングされたもので、"The Exorcist Theme"とBBC Radio 4の本格的なポエトリーを掛け合わせたようなサウンドをしている。何故このトラックが使われているのかは想像に任せるしかないが、もしかしたらThe Electrifying Mojoに影響されてのことかもしれない。彼は誰よりもMoodymannに衝撃を与えたデトロイトのDJであり、ディストピアなイメージと80年代のシンセサイザーミュージックを好んだことで知られている。 そしてこの選曲はMoodymannの露骨にいたずら好きな性格を物語っている。自身にまつわる複雑に入り組んだ逸話インタビューの途中に髪を編み込むこと、もしくは、Wonkaのゴールデンチケットのように驚くほど高値がついているシングル作品をボーナスとして無作為にアルバムの中に封入することなど、彼は不可解な物事を好む。彼が手掛けた『DJ-Kicks』も同様、そして、KDJの音楽全般にもあてはまるが、そうした特異性は事もなく楽しまれ、何か深い意味が隠れているかもしれないと調べられる可能性すらある。この特性こそがMoodymannをエレクトロニックミュージック界でも有数の聞き甲斐ある存在にしているのだ。
  • Tracklist
      01. Yaw - Where Will You Be 02. Cody ChesnuTT - Serve This Royalty 03. Dopehead - Guttah Guttah 04. Jitwam - Keepyourbusinesstoyourself 05. Talc - Robot's Return (Modern Sleepover Part 2) 06. Beady Belle - When My Anger Starts To Cry 07. Shawn Lee feat. Nino Moschella - Kiss The Sky 08. Jai Paul - BTSTU 09. Flying Lotus feat. Andreya Triana - Tea Leaf Dancers 10. Nightmares On Wax - Les Nuits 11. Rich Medina feat. Sy Smith - Can’t Hold Back (Platinum Pied Pipers Remix) 12. Julien Dyne feat. Mara TK - Stained Glass Fresh Frozen 13. Little Dragon - Come Home 14. Andrés feat. Lady - El Ritmo De Mi Gente 15. Fort Knox Five feat. Mustafa Akbar - Uptown Tricks (Rodney Hunter Remix) 16. Daniel Bortz - Cuz You're The One 17. José González - Remain 18. Big Muff - My Funny Valentine 19. Les Sins - Grind 20. Tirogo - Disco Maniac 21. SLF & Merkin - Tag Team Triangle 22. Joeski feat. Jesánte - How Do I Go On 23. Kings Of Tomorrow feat. April - Fall For You (Sandy Rivera's Classic Mix) 24. Soulful Session, Lynn Lockamy - Hostile Takeover 25. Anne Clark - Our Darkness 26. Peter Digital Orchestra - Jeux De Langues 27. Noir & Haze - Around (Solomun Vox) 28. Marcellus Pittman - 1044 Coplin (Give You Whatcha Lookin 4) 29. Lady Alma - It's House Music 30. Daniela La Luz - Did You Ever
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