ASC - Space Echo

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  • Samurai Red Sealが設立されたのは2009年。それは、Samurai Musicが"よりディープな"ドラム&ベースとされる音楽を、つまり、明解なものではなく、軽やかで独特のムードを持つサウンドを発表する場だった。その2年後、設立者のGeoff WrightはHoroを始動させた。こちらは実験的なドラム&ベースを未知の世界に持ち込むサブレーベルだった。Horoの存在によりRed Sealは窮地ともいえる状況に陥ることになった。奇抜なサウンドがリリースされるようになったHoroは、Sam KDC、Ena、ASCといったプロデューサーの多くにとってRed Sealよりも相応しい拠点になったからだ。 アイデンティティを別々にしておくことに意味がないと考えたWrightはRed Sealの停止を発表した。ASCとしても知られるJames ClementsのEP「Space Echo」でレーベルを締めくくることになったのは当然だろう。ClementsはRed Sealから1枚目をリリースして以降、同レーベルのアプローチを定義づけてきたからだ。かつての初期作品に精神面で近いサウンドを提供することで彼はRed Sealに敬意を払っている。つまりそれは、昨年の『Imagine The Future』におけるアンビエントの浮遊と比べて、より地に足のついたヘヴィなトラックだ。 収録曲のBPMは170だが、近年のASC作品の大半と同様、従来のドラム&ベースの要素はほとんどない。昨年、Clementsにインタビューしたとき(英語サイト)、彼はこれまでお気に入りにしてきたジャンルであるテクノをBPM170のテンプレート上に持ち込もうとしていることについて説明してくれた。「Space Echo」ではそのアイデアが実現されている。"Reveal"と"Ignite"はじわじわと焦燥感が押し寄せる怪物トラックで、テクノのハマっていく感覚を伴っており、ドラム&ベースのドロップやループ性にほとんど依存していない。出色のトラック"Ignite"は言ってみればテンポを速めた狂騒アシッドテクノだ。 表題曲に限り、Clementsのディスコグラフィーの中で軽やかな方向性をうかがわせている。轟くドラムサウンドが引き続き使われているが、どの要素も少しゆっくりとして軽やかな響きをしており、他の収録曲と見事な対比を成している。本作に収められているASCの音楽は既に私たちが知っているものだ。実はそれは、2010年以降、新作ごとにじわじわと進歩を重ねてきた彼にとって異例のことだ。しかし、本作のようにRed Sealの最後を締めくくっても不適切ではないだろう。ダンスフロアにもたらす衝撃と、熱心なリスナーを楽しませるディテールを多く含んだ独創的なBMP170の音楽が収録されているからだ。
  • Tracklist
      A1 Ignite A2 Space Echo B1 Reveal B2 Vanium
RA