Various - Limited001

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  • 00年代前半の話だが、当時、新宿にあったLIQUIDROOMにてFumiya Tanakaが自身のトラック”Go Up”を一晩に3回プレイしたことがあった。パーティーの序盤、中盤、終盤。プレイされるときのフロアのテンションや状況、前後の選曲に応じて、同トラックはそれぞれ異なる表情を見せた(今思えば、あのトラックは”Go Out”だったかもしれない)。ツールトラックの性質を象徴する一夜として今も記憶に残っている。使用するシーンを選ばない用途の幅広さと、いつまでも聞き続けられる確固たるグルーヴが、ツールトラックに欠かせない。使いやすさを実現するため、大きな起伏や派手なアレンジが控えられ、トラックは必然的にミニマルな作りになる。だからといって没個性に陥ることは許されず、制約の中でツールメーカーたちは創造力を働かせる。古くはDance Maniaなどのシカゴハウスレーベルにもツールトラックが見受けられるし、現在もツール的視点を持った制作者たちがそのサウンドを拡張し続けている。昨年末、ルーマニアのレーベルMusic Is Artからヴァイナル限定で発表された2枚組コンピレーションの収録曲も、おしなべてツール性が高く、様々な状況でプレイしたくなるトラックが多い。 RAHA & K-Sobajimaによる”Nine Months”は、波紋のような残響を残す柔らかなシンセとハットの抜き差しで全体的なテンションを最後まで保っている。中盤以降は背後に広がる深淵から霧のようにじわじわと浮かび上がるパッドによって、それまでの淡々とした冷ややかなムードが怪しく変化していく。低域がどっしりとしているので、比較的音数の多いトラックにミックスしても機能しそうだ。Kaitaroが提供した”Secret Crown”では、リムショットを裏打ちのハイハットに重ね合わせたり、金属的な音をエコー処理したりして、隙間の多いスカスカなグルーヴが生み出されている。パーティー序盤での使用頻度が多そうなトラックではあるが、大きな盛り上がりを迎えた直後の場面や、ピークを過ぎてしばらくした時間帯でプレイされている光景も想像できる。続くDenの” Big T's Bustle”では、存在感のある硬質なキックと、鈍くざらついた不規則なパーカッションによってビートが組まれている。非常に低い帯域でベースラインがうなっているので、他のトラックとミックスするときにEQのローを操作すると堪らなく気持ちがいい。実に5分以上が経過してから打ち込まれるスネアはフロアに大歓迎されるだろう。 トラックのどの部分に針を落としても、大きな変化はない。その素敵なミニマルぶりは2枚目にも共通しており、特にAMの”Aquarel”に顕著だ。か細く浮遊するサウンドにフランジャーをかけ、定期的にフィルインを挿入することで、ミニマル性を保ちながらトラックが進行していく。後半になり、大きく開閉するフィルターにくぐらせたシンセベースが用いられると、それに合わせて躍動感が増していく。Singurul Fiuが手掛けた”Nucul”は、かつてのクリックハウスを彷彿とさせるビートに、緩やかな動きを描くパッドを組み合わせた控えめなトラックだ。控えめとは言ったが、” Secret Crown”と同じく、ピークタイム以降にこうしたトラックが効果的に使われている場面を体験した人は少なからず存在するだろう。最後を締めくくるのはAlamicuの”Chitibusuri”だ。軽くフィードバックをかけたショートディレイのような素材がアクセントとして織り交ぜられ、一方で空洞にこだまするシンセが不安感を煽る。中高域部分に音が偏り過ぎている気もするが、後半になると大きくスイングするベースが低域部分を埋め尽くし、身体を揺さぶってくる。 どんな場面でプレイしようか。そんな想像力を刺激するトラックを収めた本作は、とりわけDJのお供として重宝しそうだ。
  • Tracklist
      A1 RAHA & K-Sobajima - Nine Months A2 Kaitaro - Secret Crown B1 Den - Big T's Bustle C1 AM - Aquarel C2 Singurul Fiu - Nucul D1 Alamicu - Chitibusuri