Acronym - June

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  • 「エレクトロニックミュージックについて有意義に話をすることは難しい」という誤解がなかなか解けることはない。ハウスやテクノのトラックにおいて特定の感情を感じ取ることは確かに困難な時もある。その表現はポップやロックのそれに比べると、それほど明白ではないからだ。このパッドは幸福や悲しみを表そうとしているのだろうか? このコードは希望や失望を象徴しているのだろうか? と疑問に思うこともあるが、こうした曖昧さはテクノにおいて、特に、よりディープな傾向を持つテクノにおいて最も素晴らしい点と言えるかもしれない。 AcronymがNorthern Electronicsに提供した最新アルバム『June』に漂うムードを、筆者は今も理解しようと努めている。本作では最初から最後まで強いメッセージ性を持った明るいサウンドが重ねられており、ここしばらく聞いてきた作品の中で最もポジティブな響きを持ったレコードだと現時点では思っている。この手のディープなテクノは通常、他のスタイルよりも大抵ダークであると考えられており、それが正しいと思われていることを踏まえれば、本作が取った意外な路線はとても興味深い。PrologueやSrtoboscopic Artefactsといったレーベルや、少数のレーベルを通じてリリースを重ねる多くのイタリア人プロデューサーにより、ダークな路線が取られることが多くなっているが(その背景についてはTodd L. Burnsによる特集記事「Italians Do It Darker(英語サイト)」を参照して欲しい)、常にそうである訳ではないようだ。 ストックホルム在住でテクノを制作していること以外、Acronymについて筆者が知っていることは皆無に等しい。スウェーデンでの生活はかなり素晴らしい(英語サイト)と聞くが、そのことが『June』の陽気な音楽観につながったと言えるだろうか? おそらくそれはないだろう。ストックホルムに住むAcronymの仲間たち(特にAbdulla RashimやVarg)によってリリースされる作品は、とことんダークな方向性に進んでいるものがあるからだ。しかし、本作の陽気さの理由が何であれ、『June』は傑作である。作品のフロウは非の打ちどころが無く、落ち着いたアンビエントからスタートした後、ダウンテンポのリズムトラックへと移行していき、フロア仕様全開のテクノで幕を閉じる。 『June』で展開される直線的な構造により、序盤の1/3は非常に活き活きとしている。柔らかくスペーシーなサンプルと優しいメロディによるレイヤーが15分間に渡って絡み合い、背景で鳴らされるスモーキーなヒスノイズに組み合わされている。このヒスノイズは作品全体を通じて遍在している。"Isolated From The Land"、"In The Swamp"、そして、"No Exit"から成るビートレスセクションでは、トラック同士が繋がり合っており(ヴァイナル上でも繋がっている)、アンビエント空間からよりエネルギッシュなトラックへとスムーズに移行することを可能にしている。 従来のテクノが収録されている『June』において終盤部は、序盤の素晴らしい展開無しには、これほど心を動かされるサウンドにはならなかっただろう。各トラックはアップテンポでシンプルなパーカッションを金属的なクラブサウンドに組み合わせており、なかなか明快に仕上がっている。そのアプローチはループを基調にしたミニマルであり、意識を搔き乱したり、高圧的に迫ってくることは決してない。例外は"Back To Understanding"だ。ジャッキンなブロークンビーツと大量のリバーブにより仕上げられており、『June』で最も激しいトラックである。このトラックを個別に12インチで出していれば、全く異なる印象になっていたに違いない。今回のトラックリストのコンテクスト上では、深く瞑想的な空間に没頭した後に、意識を引き上げてくれる待望の瞬間を演出している。 『June』が表現するものが、喜びなのか、悲しみなのか、それとも、別の感情なのか。Acronymが本作に込めた意図を私たちが理解することはおそらくないだろう。筆者が本作を聞き続けて数週間になるが、その答えは導き出せそうにない。そして、そのようにあることが熟考されたテクノの美点なのだろう。
  • Tracklist
      01. Isolated From The Land 02. In The Swamp 03. No Exit 04. Humid Zone 05. Centering 06. Realization 07. Back To Understanding 08. The Eye 09. Letting Go Of It All