Vilod - Safe In Harbour

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  • 『Safe In Harbour』は異質なレコードだ。しかし、他から孤立している訳ではない。本作をRicardo Villalobosと共にレコーディングしたMax Loderbauerは、昨年、『Ambiq』というアルバムを制作している。さらに彼はMoritz Von Oswald Trioの最新LPである『Sounding Lines』にも参加している。この3作品はすべて、ドイツの前衛テクノアーティストである彼のサウンドから生まれている。どの作品も生演奏と高純度のエレクトロニクスのバランスが取れており、流動的かつ直観的な構造の中にジャズを感じさせる。しかし、先の2作品がそれほど成果を実らせなかったのに対し、『Safe In Harbour』はかなり素晴らしくなっている。それはおそらく、コラボレーションを行ったふたりの化学反応によるものだろう。 VillalobsとLoderbauerはこれまで広範囲に渡って共に活動してきた。Nightmares On WaxからNeneh Cherryまで、あらゆるアーティストのリミックスを手掛け、2011年にはECMの膨大なカタログを再構築した『Re:ECM』を発表している。こうした活動のすべてに共通しているのは、既存の音素材を使用している点である。素材に手を加え、装飾し、過激に再構築する - しかし、彼らが生み出す微細でありながら絶妙に異質なそのエレクトロニックサウンドは、常に他人が作った音楽が土台となっていた。ふたりがオリジナル素材を使ったフルレンクスアルバムとしては初となる『Safe In Harbour』では、前述の土台が取り払われることになった。その結果、本作はVillalobosのソロ作品が持つ無気な空間へと向かっているが、Loderbauerが参加していることにより、ミニマルのパイオニアであるVillalobosも未知なる領域をさらに探求しようとしている印象だ。 ふたりがオリジナル素材を使って制作した2013年のEP「Turbo Sematic」に続く『Safe In Harbour』は、"Modern Hit Midget"の不穏なモノローグからスタートする。今回の音源は、The Modern Jazz Quartetのコンサートでの曲間に鳴らされたサウンドをレコーディングしていたもので、ふたりのジャズ志向を反映している。しかし、ウォブリーなダウンテンポグルーヴ上にリスの鳴き声のような音になるまでピッチに変化が加えられているなど、その扱い方には素材に対する行き過ぎた敬意はほとんど感じられない。他のトラックも同様に奇妙だ。ビートは不安定でぬかるんでおり、一方で中高の帯域は精密に削り出されたディテールを多分に含んでいる。"Surmasky Blow"に限っては、Villalobosのソロ作品の多くと同様、トラックを支えるしっかりとしたテクノの枠組みを感じさせるが、それ以外のトラックは浮遊感に満ちている。 この点において『Safe From Harbour』は先に挙げたアルバムと同様、ハイエンドオーディオ的音楽だと言える。混じり気の無いサウンドの悦びが主な目的になっているようなトラックが多く、決定的な音楽的ディテールはミックスの奥深くへと埋められ、鋭い聴覚を持った人によって気付かれるのを待っている。Villalobosが所有するMartion社製の見事なホーンスピーカーの前で、他人には真似できそうもないサウンド体験をふたりが耳を傾けて楽しんでいる光景を容易に想像できる。 しかし『Sounding Lines』とは異なり、『Safe In Harbour』は通常の人には不可能な環境での視聴体験を対象としている訳ではない。濃密に織り込まれたミクロなリズムによる10分間のタイトルトラック"Safe In Harbour"では、ローズに似た微かなコードが時折鳴らされており、迷宮における目印として機能している。それに似たコードはアルバムを通じて用いられており、驚くほど暗雲とした空気を生み出している。ふたりが最も実験的な領域を模索している"Beefdes"ですら、彼らの存在感は健在だ。このトラックにおけるシンセ音と生ドラムによる取り留めのないやり取りは、本作で最もオリジナル性を持った場面だ。本作のタイトルが示唆している通り『Safe In Harbour』は、熟練のアーティストふたりによるサウンドが彼ら独自の世界にしっかりと収まっている。彼らが訪問客であるリスナーに対し受入先を用意してくれたことは私たちにとって嬉しい限りだ。
  • Tracklist
      01. Modern Hit Midget 02. Safe In Harbour 03. Mulpft 04. Beefdes 05. Zero 06. Surmansky Blow 07. Mosi Fud