Various - MDR 016

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  • 今となってはもう、Marcel Dettemannはただのテクノアーティストではない。彼はテクノサウンドを具現化した存在だ。ムードがあって実用的な彼のサウンドはベルリン特有のものだが、同時にデトロイトにもインスパイアされている。デトロイトのアーティストは壁崩壊後の隆盛期ベルリンにおけるナイトライフの形成に寄与しているし、Dettmannのテイストに多大な影響を与えた重要スポットであるHard Waxで、初期の定番アイテムとなっていたのはデトロイトから届けられるレコードだった。Dettmannが表現するテクノのスタイルは、Basic Channelのループするミニマリズムに、Jeff MillsやRobert HoodのようなアーティストのSF的世界観を組み合わせたものである。殺伐としていて一定のムードがあり、ディープでいてヘビーな彼のテクノは、洞窟のような室内で繰り広げられるロングセットのために構築されている。 Dettmann以外にもこの手の音楽をプレイし制作するアーティストは他にもいるし、その中で必ずしも彼がベストであるわけでもない。しかし、Ben Klockと並ぶBerghainのフラグシップレジデントとして、彼は最もリスペクトされている。そんな彼が音楽を認めるということは多くの意味を持っており、従って、レーベルMarcel Dettmann Records(MDR)では、彼に集まる注目を自身が素晴らしいと思うアーティストと分かち合うことが可能となる。実際その通りのことがレーベルが発足した2006年から実践されており、レーベル初のフルレンクス・コンピレーション『MDR016』においても行われている。 謎に満ちたプロジェクトLockertmatikを除き、『MDR016』に参加したアーティストは全員、私生活を通じて、制作を通じて、もしくは、その両方を通じて、Dettmannと明確な関係を築いている(ここに参加しているアーティストはほぼ全員、Berghainのレギュラー/レジデントを務めている点も特筆したい)。その昔、Patrick GräserはLiebe*Detailのようなレーベルからテックハウスのレコードをリリースしていた。Answer Code Requestという斜に構えた名義で自らの音楽性を変化させようとしていた彼をデビューさせたのはDettmannで、彼の傑作EP2枚をMDRから発表している。本作でGräserが提供した"Corps De Ballet"は、彼の代名詞のひとつ、つんのめる不規則なグルーヴを伴ったムードのある屈強なトラックだ。Norman NodgeはDettmannに初めてDJプレイする機会を与えた男だ。かつての後輩だったDettmannの説得によって、後に彼はしぶしぶBerghainのレジデントを引き受けている。そんなNorman Nodgeが届ける"Signal Response"では、蛇のようにうねるテクノを彼らしくスムーズに切り取っている。Kobosilは、MDRから自身にとって2枚目となるEPを出したベルリンの新星だ。スラリとしたスペーシーなトラック"Secede"で、注目アーティストとして寄せられる期待に応えている。 昨年末、Anthony ParasoleのレーベルThe Cornerから発表されたコンピレーションEP「Bloodlines」に、Dettmannは近年でベストトラックとなる"Take One"を提供している。そのお返しとしてニューヨークから届けられた重量級トラック"7EVEN"は、直線的で張り詰めたハードな仕上がりで、グランドピアノがストロボライトのように点滅している。ベルリンのプロデューサーMilton Bradleyは、唸り声が漂う空間と綿密なループに対する好みがDettmannと共通している。この点は"Assembled"でも実証されているが、今は無きDo Not Resist The Beat!や、それに続くAlien Rainから発表してきたBradleyのキラートラックと比べると若干フラットな印象がある。 『MDR016』の中で最も離れた場所から参加しているのがFBKだ。彼の出身地、オハイオ州コロンバスは、中西部のシカゴやデトロイトに比べて、突出した歴史があるわけではない。彼は1997年から断続的にレコードを発表してきているが、その中でも特に"Nanomal"が知られている。このトラックは2010年にDettmannが発表したミックス『Conducted』に収録されている。彼の提供曲"Past Ownership"は本作におけるベストトラックで、Livity Soundを彷彿とさせる不穏なグルーヴが展開されている。ドレスデンのアーティストLockertmatikは、同名のレーベルを運営しており、そのモットーは「デトロイト・オールドスクールにフォーカスしたアンダーグラウンドミュージック」だ。この人物に関して知られている情報は少ないが、"1st.StmNT"を聴けば、鼓動するベースラインとはためくスネアによって、高く上昇し美しく乱れていく様子に、Dettmannとの強い繋がりをハッキリと感じることができる。 残るはDettmann本人だ。彼のトラック"Forla2"が本作を締めくくっている。彼はクラブにフォーカスした楽曲を制作しているが、そのフォーカスは徹底している。彼について頻繁に語られている言葉を使うならば、「妥協が無い」ということだ。今回もまさにその通りで、分厚く流動的な"Forla2"は、逆再生したようなループサウンドに満ちている。このトラックでは、ドラムは認識不可能なまで薄汚く加工され、ダーティーな空間を唯一ハイハットが切り裂いている。この傑作トラックによってコンピレーションが締めくくられるわけだが、コンピレーション自体はと言うと、確かに強力である一方、レーベルが誇る高いクオリティ水準に達しているとは言えないところがある。今回参加したアーティストもレーベルも、ここ数年の間にもっと素晴らしい楽曲を発表している。例えば、Dettmannのfabric mixに収録の未発表トラックを集めた『MDR014』は、2回に分けてリリースされていたが、コンピレーションとしてはあちらの方が間違い無くよかった。とは言え、『MDR016』がテクノ界の精鋭集団から届けられた作品として十分な仕上がりであることは確かだ。
  • Tracklist
      A1 Answer Code Request - Corps De Ballet A2 FBK - Past Ownership B1 Anthony Parasole - 7EVEN B2 Norman Nodge - Signal Response C1 Milton Bradley - Assembled C2 Kobosil - Secede D1 Lockertmatik - 1st.StmNT D2 Marcel Dettmann - Forla2