Moog - Werkstatt

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  • プロデューサーの多くは機材の内部がどうなっているのかについて、多少は興味を持っているはずだ。Moogが発表したフルアナログシンセWerkstattはその興味に回答するために生まれた機材だ。元々はMoogfest 2015のエンジニアワークショップで使用されていたものだが、このたび一般発売された。このワークショップで使われたWerkstattははんだ付けが必要だったが、今回の一般仕様では既に組み上げられたプリント基板(PCB)をネジで止める方式に変更されている。しかし、この自作キットというスタイルのため、箱を開けて最初に目にするのは剥き出しのPCBだ。そのため、このPCBを分解して内部構造を把握してみたいという気持ちになるのだが、これこそがMoogの狙いだ。Werkstattはシンセサイザーの内部構造と外部構造を全体的に理解するための教育用機材なのだ。 Werkstattの筐体はVHSビデオテープほどの大きさで、非常に分かりやすいレイアウトになっている。機能は必要最低限で、一般的な減算方式のシンセサイザーの基本機能はすべて揃っているが、ベルやホイッスルはない。オシレーターは1基(パルス波かノコギリ波のみ)で、パルス幅用のノブと周波数用のノブが備わっている。また最下部のボタン群はキーボードとして機能する。Werkstattは決してプレイしやすい音楽的なシンセサイザーではなく、シーケンサーやMIDIを組み込むには内部をいじらなければならないが、それを行うのは簡単ではない。フィルターは嬉しいことにMoogお得意の24db/オクターブのラダーフィルターだが、変化させることができるのはカットオフとレゾナンスだけだ。アンプはエンベロープジェネレーターで変化させるか、「ON」に切り替えて継続的に鳴らすだけになっている。シグナルパスを形成するVCO−VCF−VCAの3セクションは一番上の段に左から順に配置されている。 その下の2段目はVCOとVCFにモジュレーションを加えるセクション(それぞれパネルに明記されている)になっている。それぞれがソースとアマウントを変更できるようになっている。オシレーターのモジュレーションはピッチかパルス幅のいずれかが選択できるが、フィルターのモジュレーションはカットオフだけだ(極性の切り替えは行える)。3段目はモジュレーターで、レート用のノブが備わった矩形波/三角波のLFOと、サスティンのオン・オフにアタックとディケイだけのシンプルなエンベロープで構成されている。Werkstattはフロントパネルを見るだけで簡単に理解できるため、ビギナーは短期間で操作が習得できるはずだ。バックパネルはモノラルジャックと電源のみとなっている。尚、フロントパネルにはグライドノブも備わっている。また、オタク的な発言かもしれないが、フロントパネルのMoogのロゴは、自分が最高のメーカーから学んでいるという感覚を与えてくれる。 MoogはWerkstatt専用のウェブサイトWerkstatt Workshopを立ち上げており、ここはチュートリアルの包括的なリソースとして機能している。回路図の設計理論に関する詳細な説明はないものの、その他についてはほぼすべてが用意されている。Lessonsセクションでは科学的・技術的・数学的・音楽的と幅広い視点から基本性能が説明されており、またこれらの知識はすべてビギナー向けに調整されているため、すべてをチェックすれば、ビギナーでも基礎を包括的に学べるはずだ。また、これらのレッスンには実際にWerkstattを使った例が用意されている。またProjectsセクションではフロントパネル右側のパッチベイとArduinoなどの外部電子機器を組み合わせた例が多数紹介されている。 パッチベイはフロントパネルの基本機能を拡張するためのもので、複数のコントロールボルテージを使用可能にすることでひとつ上のモジュレーションの可能性を提供している。各アウトプットは2系統になっているため、ひとつのソースを複数に出力可能で、またインプットにはフィルターの手前に接続されるオーディオインプットも含まれている。このパッチベイのソースとアウトプットについては一般的なものが用意されている(ウェブサイトのリストを参照)が、自分のモジュラーシステムに接続したいと考えている人のために先に言っておくと、CVインとゲートインが用意されていない。尚、ユニークなルーティングとしては、VCOアウトとVCO周波数イン(自己発振のモジュレーションなど)や、LFOを2番目のオシレーターとして使用出来るものが挙げられる。また、外部機器と接続するためにジャック式のインターフェイスが欲しい人のために、専用のエキスパンションボードも用意されている。サイト上のレッスンの中にはこのパッチベイや外部との接続を積極的に利用しているものがあり、基本機能だけに留まっているレッスンもある中で、Arduinoを使った疑似オシロスコープの波形表示など、複雑なテクニックを紹介するレッスンもある。 より深く調べていくと、PCBにはテストポイントやジャンパー、実験用のパッドも用意されているため、使用者が納得するまで内部をいじることができるようになっていることが分かる(ただし、これは保証対象外となる。Moog側も「この製品の改造は推奨しません」と明記しているが、これは義務として載せている反面、皮肉を込めたジョークとしても載せているのだろう)。またWerkstatt Workshopには剥き出しのPCBを使用するプロジェクトも複数存在するが、一番楽しめるのはSparkfunだろう。ここではシーケンサーやMIDインプットを追加する方法を学ぶことができる他、フォーラムもある。最近はフォーラムにあまり動きがないが、それでも役に立つ面白い投稿が見つけられる。 Werkstattのサウンドは非常に原始的だ。この機材の目的も相まって触り始めはBBC Radiophonic Workshopのテストサウンドのように感じられる。しかし、これはMoogの製品であり、自分が何をしているのかを把握できるようになれば、素晴らしいサウンドが生み出せるようになる。Werkstattのサウンドについてはサンプルをチェックするのが良いだろう。しかし、これは基本的には教育用機材であり、また、その点について包括的によく考えられて作られている。よって、基礎を学びつつ、深く掘り下げていけば、この機材を最大限活かすことができるだろう。Werkstattはアナログシンセサイザーの内部構造をしっかりと理解するための大きな助けとなるはずだ。自分のシンセの外側を眺めているだけでは飽き足らず、内部で何が起きているのかを学びたいという人には、これ以上のお勧めはない。 Ratings: Cost: 3.6 Versatility: 4.9 Sound: 4.1 Build: 4.8 Ease of use: 4.5
RA