Apple - Logic Pro 10.1

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  • 昨今のDAWは頻繁にアップデートされるため、10.0から10.1にアップデートされただけのLogic Pro Xがこうしてレビューされることに驚く人もいるかも知れない。しかし、Logic Pro 10.1は平均的なアップデートとは違う。いくつかのバグを修正する代わりに、様々な新機能が詰め込まれており、Logic Proを使用したことがないという人もメインDAWとして興味を持つ可能性が高い。 その中で最も目立つ新機能はビートメイクを重点においている。Logic Proがバージョン9から10へアップデートされた時、Drummerと呼ばれる新しいトラックタイプが追加された。これは非常に優秀なサウンドエンジンを使用することで、よりリアルな生ドラムのパターンが組めるものだったが、そのDrummerが10.1で改良され、新たにElectricとHip-Hopという2つのカテゴリが組み込まれた。 まだLogicに不慣れな人のためにその機能を一応説明しておこう。Drummerトラックを選択すると、複数のアバターがブラウズできるようになり、そこから自分が探しているドラムに最も近い “プロデューサー” を選択する。その右隣にはXY軸のパネルがあり、ドラムパターンに関してラウド / ソフトを縦軸、シンプル/ 複雑を横軸とする選択を行う。次に、キック、スネア、ハイハット、シンバル、そしてパーカッション(オプション)を調整する。Logic Pro XではDrummerはこのパターンをDrum Kit Designer上に生成していたが、今回のアップデートでそのサウンドがエレクトロニック・ミュージックまで拡大されたため、新しいインストゥルメントDrum Machine Designerが追加された。これはエレクトロニックなDrummerトラック用のデフォルトプラグインだが、通常のプラグインソフトとしても使用可能で、MIDIノート上にサウンドがマッピングされる。ドラムキットそのままか、ハイブリッドなドラムキットの選択が可能で、ハイブリッドの場合は異なったソースからキック、スネア、ハット、パーカッションを個別にパッド上にロードすることが可能だ。 またDrum Machine DesignerではLogicのSmart Control機能をフル活用した簡単なミキシングが可能になっている。各サウンドはグループへ送られ、そこで全体のレベル、エフェクト、パンニングなどの調整や、ひとつずつ選択し、個々のパラメーターも調整可能だ。こうすることで、数々のサウンドのチューニング、エンベロープの調整、または他の部分の設定が行える。熟練のLogicユーザーならば、ドラムマシンUltrabeatが既に存在しているのを知っているはずだが、Drum Machine DesignerはUltrabeatと重なるものではない。Ultrabeatが複数のサウンドソース(シンセ、ライブ、サンプル)を扱えるドラムインストゥルメントだとすれば、Drum Machine Designerはビートパターンが簡単に作成できるツールと言える。そして嬉しいことにDrum Machine Designerには新しいサウンドが幅広く盛り込まれている。 ピアノロール(他のDAWで言うところのノートエディター)を使ったパターン作成機能も改良された。ピアノロールはリアルタイムプレイをしないでノートを打ち込む時に使用する機能だが、これまでは右側にキーボードのすべてのレンジが表示されていた。これは打ち込むノートがキーボードレンジ上に散乱している場合に非常に厄介で、ラップトップユーザーの場合は特に、画面のスクロールを余儀なくされる時が多かった。これを踏まえ、新たに導入された「折りたたむモード」はMIDIノートがアサインされているキーだけを表示するという非常に便利なモードだ。例えばキックとスネアだけのパターンを作成する場合、「折りたたむモード」を選択すればピアノロール上にはC1とD1だけが表示されるようになる。次にモード選択を解除してハットやクリックを選択し、再び「折りたたむモード」を選択すれば、それらが新たに加わっただけのキーボードが表示される。これは非常に有用な省スペース対策だ。また、アクシデントで不要なノートを追加することもなくなった。 ピアノロールにはブラシツールも新たに追加された。これを使用すればクリック&ドラッグだけで連続したノートを打ち込むことが可能だ。例えば2小節の16分音符のスネアロールを作成する場合は、32回打ち込むか、数ノート打ち込んだあとコピー&ペーストをするのが常だったが、今回のアップデートでその必要がなくなった。ブラシツールを選択してピアノロール上を動かせば、グリッド毎にノートが追加される。 MIDI関係にはリアルタイム系ツールも追加されている。そのひとつであるノートリピートはその場でノートをフレキシブルにリピートさせることが可能な機能だ。デフォルトではツールバーの中に隠されているが、表示メニューから簡単に開くことが可能だ。ノートリピートの機能を本格的に理解するためにはエディタ内の小さな三角形をクリックする必要がある。ノートやコードを抑え、8分音符、16分音符でチョップされたようにリピートされるフレーズを求めている場合はノートリピートがオススメだ。各サウンドが鳴る時間(ゲート)も選択可能で、必要に応じてベロシティのオフセットも設定できる。そして、このパラメーターにリアルタイムコントロールをアサインすれば更に面白くなる。例えばモジュレーションホイールをアサインすれば、動かすだけで瞬間的にクレイジーなパターンが生み出せるようになる。またレコーディングされたシーケンスは「スポット消去」を使えば更なるエディットが可能で、ノートの挿入と同様、消去も簡単に行える。 Logicのプラグインのデザインはほとんど変わっておらず、多くが9から10へ移行した時と同じままだったが、チャンネルEQは10へのアップデートと共に改良されていた。今回、その流れを組んで大幅に改良されたのがLogic標準のコンプレッサプラグインだ。Logic標準のプラグイン類のサウンドクオリティは非常に優秀なため、今回コンプレッサが改良されたのは嬉しいニュースだ。アルゴリズムとモデリングされたアナログサーキットが(メニュー内に隠されているのではなく)前面に押し出され、往年のクラシックコンプレッサーを上手に取り入れたデザインになっている。コンプレッサのアルゴリズムにはVUメーターとデジタルディスプレイが組み込まれ、サイドチェイン時の入力ソースのコントロールなどのオプションも追加されている。新しいプラグインのような感触で、より人間的な使用感が味わえる。 また、10.1ではオートメーションも改良された。その中で最も便利な機能と言えるのがリージョンベースのオートメーションで、Logicユーザーには馴染みのトラックオートメーションと併用できる。簡単に言ってしまえば、リージョンのオートメーションは、ひとつのリージョン内のパラメーターのオートメーションを書き込むことを意味し、その書き込んだ内容をコピーしたり、クリップ内で移動させたりできるということになる。例えば、特定のパラ−メーター(例:シンセのディケイなど)のオートメーションを1小節ごとにリピートさせつつ、他のパラメーターを長い時間をかけて変化させる(例:8小節のフィルターの開閉)場合が良くあるが、これが今回のアップデートで簡単に行えるようになった。例を元に説明すれば、1小節のシンセパートを作成し、その中にディケイのパラメーター変化をリージョンオートメーションとして書き込んだあと、8小節コピーする。その後で今度はトラックオートメーションに切り替え、8小節に渡るフィルターのオートメーションを書き込むだけだ。 尚、オートメーションには新たに2つのモードが追加されており、両モード共にエキサイティングなオートメーションが作成可能だ。この2つは相対モードとトリムモードと呼ばれており、フェーダーを使用したオートメーションラインの書き込みと新しい数値の入力が行える。ミックスを聴き直している際に、ヴァースのヴォーカルレベルが間違っていて、コーラスでは正しいという場合は、既存のヴォリュームオートメーションをガイドとして使用して新たなオートメーションの書き込みが行える。両モードを活用すれば既存のオートメーションを選択する手間と、一度停止して変更する手間がはぶけるため、非常に嬉しい機能だ。 また、これまでのLogicでリアルタイムでは行えなかったもうひとつの機能がフェードだ。オーディオファイルのフェードアウト、または2つのオーディオファイルのクロスフェードなど、Logic上のあらゆるフェードは別途フェードファイルが作成されていたため、その結果、Logicのフェードはリアルタイムではプレイバックされなかった。フェードを確認するためには一度停止してから再生しなければならなかったのだ。しかし、今回からリアルタイムで自由にフェードが作成できるようになり、その場で設定がアップデートされるようになった。 追加されたもうひとつの新機能がプラグインマネージャーで、この機能によってプラグインをメーカー名ではなくタイプ別や自分で作成したフォルダ別に整理できるようになった。例えばディストーション系をひとつにフォルダにまとめたいという場合も、これ使えば簡単に行える。プラグインを大量に持っている人には嬉しい機能だ。またオーディオファイルをRetro Synthのウェーブテーブルとしてインポートできるオプションも追加され、予想外の面白いサウンドが生み出せるようになった。更に言えば、Logicのミキサーにも多少の変化が加えられている他、ダウンロード可能なオーディオコンテンツも追加されており、Drum Machine Designer用のサウンドに加え、EXS24用のMellotronサンプルも入手可能だ。 簡単にまとめると、Logic Pro X 10.1ではLogicユーザーが通常のアップデートで確認していたような機能以上の改良が行われている。そのため、Logicユーザーならばすぐにダウンロードしてみるのが良いだろう。また、DAWを購入したいがどれにしたら良いか迷っているという人にも、Logicは初心者向けの魅力的な内容がより多く詰まっているソフトと言える。 Ratings: Cost: 4.8 Versatility: 4.8 Sound: 4.8 Ease of use: 4.0
RA