- 2011年の設立以降、Samuraiの派生レーベルSamurai Horoはドラム&ベースの概念を不明瞭にしている最も興味深いレーベルの1つだ。これまでにレーベルはBPM170の実験的トラックを2~4曲収めたEPにしてアナログ限定でリリースしてきている。唯一の例外として好評を得た昨年のコンピレーション『Scope』があるが、個人的にはSamurai Horoからアーティスト・アルバムが発表されないかと、心待ちにしていたところだ。ENAをこの記念すべきアルバム・リリースに選んだのは完璧だったと思う。東京を拠点とするプロデューサーである彼はドラム&ベースの解体・再構築を2008年から行っているが、ソロ・アルバム『Bilateral』をリリースしたのは実は昨年の話だ。それまでにENAが関わってきたジャンルから抜け出たのが『Bilateral』だが、2014年の彼はドラム&ベースのテンプレート上にて新たな試みを見せている。
彼はサウンドを発見することを好む。それはENAに馴染みのある人ならお気づきだろう。その有機的な特性は『Binaural』を通じて提示されており、1曲目の"Dast"はアラームのような音からスタートし、フィードバック音があり得ない大きさに膨張していく。"Pressed"に至るまでに、悪夢に出てくるような虫がゆっくりと強大になっていき、何百本もの細長い足でかさかさとタイトなパーカッシブ・ロールを打ち鳴らしている。一方、シンセサイザーによるサウンドが前面に現れることもあるが、巧妙に極微量に用いられている。"Antenna"での柔らかなメロディは心地よいインタールードを提供しており、"Chemically"で時折打ち寄せるベースラインの波はダンス・ミュージックとの繋がりを感じさせる要素を生み出している。とは言え、このトラックがクラブ環境で流れているのを想像するのは難しいのだが。
そしてレコードと異なるトラックになっているのがCD/デジタル・バージョンだ。このバージョンのみでもほぼ完璧なフルレンクス・アルバムと成り得ただろう。しかし、Samurai Horoの核となる音楽観を感じさせるサウンドにこだわったアナログ・バージョンでのリリースは完全に異なる化け物だ。"Back Cover"と"Fifth Resonance"のようなトラックでは、骨格だけのドラム&ベースという一面がより明確に打ち出されているが、全体的な雰囲気は同様に保たれている。デジタル・バージョンの方が若干まとまりがあって入念な印象がある。しかし、どちらか1つのバージョンが気に入れば、確実にもう1つのバージョンも楽しめることだろう。Samurai Horoは既に素晴らしいレーベルだが、『Binaural』はさらに新たな地平を切り開いている。
TracklistDigital:
01. Dast
02. Absorption #2
03. Reconnoiter
04. Chemically
05. Sneaking
06. Pressed
07. City Lights
08. Faction
09. Out Of Nothing
10. Antenna
11. Nerve Fiber
12. Lapslap
13. Recapitulate
14. Hygrophobia
Vinyl:
A1 Bug Hole
A2 5th Resonance
A3 Wrong Side
B1 Squash
B2 Precipice
B3 Grey Area
C1 Circular
C2 Morph
C3 Back Cover
D1 Big Foot
D2 District
D3 Tones