FabFilter - Pro-Q 2

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  • サードパーティーのパラメトリックEQはプラグインとしては最後に手を出す類なのかも知れない。明確に表示することで、DAWのEQをしっかりと把握するためだけのもの - 確かにある意味そうなのだが、実際はEQに特化しているため、周波数帯域がどう変化するのかをより正確に示せるヴィジュアルとよりクリアなサウンドに加え、その精度と鮮やかさと共にミックスダウンに非常に有益な多くの機能を備えている。オリジナルのFabFilter Pro-Qは、そのサウンドが高い評価を獲得し、幅広い層からの人気を誇っていたが、鮮やかで明瞭なインターフェイスと直感的だがパワフルなワークフローもその人気の要因だった。 Pro-Q 2にはそこに数多くの改良と機能が追加されている。今回からモードは3種類となり、オリジナルのZero Latency(説明するまでもないが、CPUを優先し、音質よりもレイテンシーを重視するモード)とLinear Phase(ノーマルモードで生じる位相の問題を修正する)に加え、Zero Latencyよりも理論上アナログ処理と位相に近いNatural Phase(デジタル処理でも理想的なスロープに近づけられるが、正確ではない)が加わった。Pro-Q 2ではCPU負荷を押さえながら、よりスムースで、より自然なサウンドを生み出せる。またアルゴリズムも改良されており、全体のサウンドの向上とCPU負荷の軽減も実現されている。 EQポイントはカーブ上をクリックすることで追加でき、クリックする場所によって異なったタイプが追加できる。追加後にコントロールボックス内でもタイプの変更は可能だが、Pro-Q 2にはEQをスピーディー且つ直感的に行うための無数のショートカットが用意されており、これはその一例だ。また、周波数帯域の中心周波数を示すドット(EQポイント)をクリックし、それを画面上で動かせば周波数とゲインの変更が可能で、この時に修飾キーを押しながら動かせばQ値が調整できる。また各EQポイントのフローティングパネルでも周波数・ゲイン・Q値がノブで変更できるが、ノブよりもクリックの方が素早い作業が可能だ。サウンド自体はこれらの調整に対しスピーディーかつスムースに反応し、気になるようなノイズも発生しなかった。他にも、様々な方法での数値入力、波形のズームとナビゲーション、周波数の12平均律へのマッチング、複数のEQポイントの同時調整など、便利な機能が備わっている。尚、同時調整には新たにゲインスケール機能が追加されており、これはゲイン設定された全EPポイントのゲイン幅を計測し、それに比例した形で全体のカーブの調整が行える機能だ。 各EPポイントには様々なオプションが用意されており、スロープを極端に変化させることが可能だ。ハイカット、ローカットに加え、他のすべてのシェイプに対応している。新しく追加されたTiltとBand-Passシェイプと最大24個まで追加可能なEQポイントを組み合わせれば、非常に複雑なスロープを作成することが可能だ。また、ディスプレイはフルスクリーンを始め、様々なサイズに対応しているので、作業が把握しやすい。視認性の良さには美しいインターフェイスも一役買っており、各EQポイントと全体のカーブがどう変化するのかが色分けされて表示される。 波形の分析表示はスムースで、表示速度や解像度の変更、フリーズにティルトなど、様々なオプションが用意されている。また新たにSpectrum Grabモードが実装されており、波形上でマウスを動かすと前面に表示され、カーブがハイライト表示される。その後、それを直接ドラッグさせて調整すれば、そのポイントを自分の好みの波形に変えられる。これは従来の「EQを調整—波形を確認」という反復作業に取って代わる素晴らしい機能だ。また、他のチャンネルをサイドチェインさせてEQ Matchを使用し、そのチャンネルの周波数特性を自動調整で他のチャンネルのそれに合わせることも可能だ。これは例えば同じに聴こえない複数のヴォーカルトラックのEQを揃えたい場合などに便利だ。 Pro-Q 2は非常に便利なツールだが、シリアスな機能も備わっている。Linear Phaseモードはマスターバスに適しており、LRとミッド-サイドの2モードが備わっている。インターフェイスが両チャンネルを同時に表示し、ステレオモードの場合はクリックひとつで特定のEQポイントを分離し、チャンネルごとに調整できる。また、EQのレンジは10Hzから30kHzまでと広く、EQカーブも鋭いため、ヘッドルームを占有している不可聴帯域をカットするのに適している。実際に使用してみると、非常に精度が高くクリアで、適切なポイントで周波数がカットされる。また、非常に狭いQ値の設定でブーストされた周波数も明確に聴き取れる他、ハイのプッシュ時も、過度にエッジの効いたサウンドというよりは必要なだけが追加される印象だ。よって、チャンネルごとに複数使用すれば、非常にクリアで細かいマスターミックスが生み出せる。尚、チャンネルごとに使用しても、CPU負荷が低いため問題ない。Pro-Q 2はDMGのEquilibriumなど、他社製品よりも数多くのEQ特性を備えた製品ほど包括的ではないが、目立って簡略化されている訳でも無く、かといって、スピーディーな操作性を損なってしまうほど細かい訳でもない。 「チャンネルごとのEQ処理」はよく知られている一般的な制作手順で、そこに高い精度の周波数調整をスピーディーに提供できるプラグインはクリエイティブ面、サウンド面共に大きな違いをもたらせる。そう考えると、FabFilterは実にスムースな製品を開発したと言えるだろう。非常に有用なミックスダウンツールであると同時に、単純に使うのが楽しいプラグインだ。 Ratings: Cost: 4.5/5 Sound: 4.5/5 Versatility: 4.5/5 Ease of use: 5/5
RA