Caribou - Our Love

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  • Caribouことカナダ人アーティストDan Snaithが2010年に『Swim』(英語サイト)を発表してから多くのことがあった。最も重要なのは、彼がDaphni名義でダンス・ミュージックを作り始めたことだ。これによりダンス・ミュージックの世界で躍進する彼の役割はオフィシャルなものとなったが、同時にCaribou名義での「偶然のダンス感覚」と彼のレーベルJiaolongから発表するより意図的なグルーヴの間に、はっきりと線引きをすることにもなった。『Out Love』からのファースト・シングル"Can't Do Without You"はまぎれもなく今夏のアンセムであり、Snaithの別の姿を垣間見た気がした。しかし、この新作アルバムのほとんどはバランスを欠いた異なる内容になっており、若干混乱してしまっているように聞こえる。 『Our Love』の大部分はDaphni以降のCaribouから想像出来るサウンドだ。"Silver"は彼の初期作品的な60年代一直線のサイケデリアをアップデートしたものであり、じっとりとした空気を漂わせるシンセをあてがえている。しかし、アウトロ部分でクラウトロックなギターが突如激しく唸りだす展開はクラシックなCaribouスタイルだ。タイトル・トラック"Out Love"は"Sun"と同様のフェスティバルの高みに達しているが、弾むベースラインや高揚するコードなど、その方向性はディープ・ハウスの模倣に終止している。彼のベスト・トラックはリスナーの感情を複雑に掻き立てることの出来ることを考えると、このトラックは残念なほどに深みがない。 とはいえ、Caribouの他の作品と同様『Our Love』にもいい部分はある。"All I Ever Need"はしなやかなアルペジオによるR&Bトラックで、がっしりとしたシンセに対しSnaithのか細い声が対峙している。"Mars"は詰まるところバンギンなDaphniのトラックにフルートを加えたと言ったところだ。アルバムの後半を明るく照らし出す"Julia Brightly"は、好戦的なフィルターのスイープを用いた忙しないおとぼけガラージ・チューン。そして最も素晴らしいのは"Back Home"かもしれない。苦悩に満ちたDepeche Modeのようなほとばしるシンセ・ポップへと豪快に展開していく殺伐としたバラードだ。 "Back Home"における決定的なコーラス・パートは『Our Love』の中で突出している。このトラック以外は落ち着いた雰囲気であることが多く、Snaithがいつ盛り上げていくんだろうかと待っていても、何も起こることはない。まるで彼は音を立て過ぎることを恐れているかのようだ。これにより最も大きな被害を被っているのがJessy Lanzaだ。"Second Chance"に参加している彼女は美しく輝くはずだった。なぜこのトラックが上手くいかなかったのか理解出来ない。Snaithのシンセによる伴奏はスムーズで魅力的だし、Lanzaもいつになく自身に満ちた歌いっぷりだ。しかし、この2つを一緒にすると白地のキャンパスに白色のペイントを塗っているかのように、お互いに消滅し合っているのだ。どろどろになったサウンドがただそこにある、そんな感じだ。 Caribouのアルバムの多くと同様、『Our Love』も大作だ。最初は失敗していると感じた歌モノでさえ、そのニュアンスの効いたプロダクションには、この数カ月楽しく味わわせてもらっていた。しかし、本作からはどうしても物足りなさが拭えない。『Swim』以降のSnaithの成長ぶりを考えると、『Our Love』は彼のキャリアを決定づける傑作となっていてもおかしくはなかった。逆に本作はそのキャリアの真ん中に否定するかのように居座り、Snaithのサイケデリックな部分と、最近やっているダンス・ミュージックのスタイルのいずれもひきたてることなく、単に組み合わせただけで終わってしまっている。
  • Tracklist
      01. Can't Do Without You 02. Silver 03. All I Ever Need 04. Our Love 05. Dive 06. Second Chance 07. Julia Brightly 08. Mars 09. Back Home 10. Your Love Will Set You Free