FaltyDL - In The Wild

  • Share
  • Falty DLことDrew Lustmanがストレートなことをやらないのは明らかで、2ステップ、ハウス、Brainfeederスタイルのビートと忙しなく動き回っている。2013年の『Hardcourage』のレビューにおいてAndrew Ryceは彼が新たに発見した方向性を「喜ばしい流行」だと賞賛した。このニューヨークのプロデューサーから次に届けられるのは何か?千変万化、と簡潔に答えられないならば、"Ahead The Ship Sleeps"のような日差しを目一杯に浴びた至福のラウンジ・ジャズや、"Danger"でのドラム&ベースなど、様々な音楽を探訪しつつ、5つのムーディーなインタールードを含む17のトラックからなる作品である、と答えておこう。 ある意味、世の中がLustman的な考え方になってきている。取りあえず折衷的にしておこうとしたり、部分的に他のものを取り入れたり、建前上、異なる音楽をつなぎ合わせる、といったようなアイデアは今では当たり前になっている。ベース・ミュージックでは特にそうだ。Actressが複雑に入り組んだアルバム『Ghettoville』でやったことと全く同じように、断片的な素材や、細かく入り乱れる展開、そして激しく変化する音色、といった要素があるからといって、それは必ずしも意識が取り散らかっているわけではないということを、Lustmanも証明している。『In The Wild』の全ての要素が労を惜しまず正確に処理させていることは明らかであり、例えば、"Aqui, Port Lligat"のスペクトラル状に洗い流されるサウンドや、甲高い水銀トラック"New haven"、そして気体状のアンビエントが渦巻く空間が広がる"Uptight"、こうしたトラックは、これ以上コントラストをつけることが不可能なまでに異なり合っているが、芸術的に計画されたDJセットと同様の方法論に基づき、なめらかに繋がり合っている。その変化はマジシャンの華麗なカード捌きのようにスムーズだ。 感情的にも地理的にも『In The Wild』は拡張的であり予想外であり、そして相反しているものだ。トロピカルに晴れ渡った高温多湿な空間が広がる"Nine"だが、LustmanはなんとArthur Russell風のチェロから、このトラックを構築し奇妙なダークネスを生み出している。マカロニ・ウェスタン風アコースティック・ギターによる馴染みのある特徴だけでなく、Delia Derbyshireスタイルのシンセによって"Dos Gardenias"では、テキサスやニューメキシコの焦げ付く砂漠の風景が呼び起こされる。熱気と砂埃に包まれた砂漠というだけでなく、そこには不気味な犯罪の匂いと宇宙人に連れ去られるような感覚がある。 『In The Wild』における感情的な色彩を、褪せていくメランコリアと表現することも出来るかもしれないが、実際はそれよりもさらに複雑だ。ざらついたサウンドの絶望的なトラックでさえ、陰鬱さを突き抜ける美しさを持った瞬間があり、いくつかのトラックにいたっては謎に満ちた第3の領域に存在し、果てしない悲しみと多幸感が分離不可能なまでに絡み合っているかのようだ。悲痛に鳴り響く旋律と、あちこちへと細かく動き回るトライバルなリズムによる"Do Me"には、一瞬ではあるが、Jamie XXや初期Joy Oのように湧き上がるような感覚がある。そしてアルバムは疾走するテクノ領域へと突入していく。SMプレイのような状況の中「do me harm / 痛めつけて」と繰り返される。"Heart & Soul"はジャングルのようでジャングルでない奇妙なトラックで、1950年代のガールズ・グループの酷く捩れたカセットからサンプリングしたようなヴォーカルが用いられている。 もしかしたら、こうした楽曲に苛立ちを覚える人がいるかもしれない。『In The Wild』の様々な方向に広がる回りくどい展開からは、1つの地点から別の地点に行くような直線的な進行が取り除かれているし、古いDJ Shadowのトラックから影響を受けたであろう"Some Jazz Shit"など、時折、既存のものから派生している場面もある。しかし、筆者にとっては本作は高尚な熱意によって生まれた心奪われる作品だ。色彩と深みを与える処理がその細部にまで渦巻いているのだ。
  • Tracklist
      01. Aquí, Port Lligat 02. New Haven 03. Uptight 04. Do Me 05. Greater Antilles Part 1 06. Nine 07. Frontin 08. Untitled 12 09. Ahead The Ship Sleeps 10. Rolling 11. Dos Gardenias 12. Heart & Soul 13. Grief 14. In The Shit 15. Dånger 16. Some Jazz Shit 17. Greater Antilles Part 2