Moodymann - Moodymann

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  • ファンに対してMoodymannが意地悪な態度を取っていると感じることがたまにある。彼が最近発表した今回のアルバム『Moodymann』は、買う場所によって37ポンド(約6,350円、2014年3月現在)の値がついていることもある。これは一般的なコレクターズ・アイテムかボックス・セットの値段と一緒だ。実際に彼のアルバムを探していたとしよう。すると気付くのは、高値が付いているにも関わらず『Moodymann』は数日の間で店頭から姿を消し、すぐさまDiscogs上で転売されるようになっているということだ。しかもその時には80ポンド(約13,750円)の値段が付いているのだ。これはDixon Jr.のようなデトロイトのプロデューサーにとっては日常茶飯事とも言える話だが、彼の場合、熱狂的なファンに競争させて誰が一番最初に無駄に金を払うのか観察しているようにも思える。運よくアルバムを手に入れることが出来たなら、コニャックを片手に悪魔の笑みを浮かべる男がミニチュアな女性から奉仕を受けているジャケットが出迎えてくれる。「そうだ、俺はクソ野郎だ。何か文句あるか?」まるで、男はそう言っているかのようだ。 こうしたペテン的とも言える行為を容認できるのには理由がある。単純な理由だ。それは、Moodymannはハウス・ミュージックにおいて史上最も素晴らしいアーティストの1人であり、20年に渡ってその最前線に君臨し続けているからだ。彼の作品の多くのように、自身の名前をタイトルにつけた今回のLPでは、ハウス・ミュージックの括りを飛び越えていく才能を示しており、ファンク、ソウル、ヒップホップ、ジャズ、R&Bを織り合わせて、豊かで予想できないようなコラージュ作品を生み出している。盛り上がり必至のトラックも収録されており、ここ数年で最もクラブ仕様のトラック"No"や"Sunday Hotel"にはMoodymannらしい茶目っ気に溢れている。特に27ものトラックが収録されたCD/デジタル盤が面白い。メインのトラックとは別に、一風変わったアイデアの切れ端が満載だからだ。ハウスという音楽では本当に稀ともいえる親しみやすさとスタイルによって"アルバム・フォーマット"という形式に対して問題提議を投げかけている。若干ながらズレを意識したサンプル中心のサウンドはJ Dillaを彷彿とさせるが、全体的には100%、Moodymannのサウンドだと言っていい。余談だがカット&ペーストという点で、J Dillaはデトロイトにおけるもう1人の天才であり、Dixon Jr.のレーベルからリリースしたこともある存在だ。 Dixon Jr.は自分自身を音楽の中心に据えるクセがあるが、これこそ彼の個性を常に際立たせている要因だろう。『Moodymann』では、この点がいつになく顕著に表れており、普段以上に彼の声が使われていることが分かる。いつもなら1つの素材として使われているだけなのだが、今回はリード・ボーカルを担っているのだ。最も分かり易いのはAndrésによってプロデュースされたBPM185のポップソング"Lyk U Used 2"だろう。もはやDJ/プロデューサーというよりもラッパーにさえ聞こえる瞬間もあり「We in dis club a lettle high, we in dis bitch on fiyah」と韻を踏んでさえいる。彼はセックスについての話が大好きで、"Freaki Muthafucka"のアイデアがアルバムを通じて何度も用いられており、平気でペニスのサイズを自慢をしている場面がある。今回は「8.5インチ(21.59cm)の長さ」だと言っているが、以前には「お前の彼女は俺の12インチで楽しんでる」というダブル・ミーニングのジョークもあった。 アルバム終盤ではMoodymannという名前の由来について説明がなされているように思う。本作のもう1つの大きな要素でもあるデトロイトに贈る11分間に及ぶファンク叙情詩"Sloppy Cosmic"や、その導入部にあたる"Girl"がそれにあたる。"Sloppy Cosmic"の後半部ではドキュメンタリーのナレーターがデトロイト史に残る凄惨たるドラッグ抗争に関わっていたギャングのリーダーHenry Marzetteについて語っており、トラックは以下の言葉で締めくくられる。「おそらくこれまでデトロイトで行ってきた悪行を償うためだろうか、Marzetteは死の間際に彼のメイン・ヒットマンであるMoodyを処刑し、車のトランクに押し込んだ。」 - つまり、Moodyなる人物はプロの殺し屋でデトロイトのために殉職した男ということになる。Dixon Jr.は彼から名前を取ったのだろうか? アナログ盤のアートワークにはMoodymannのパーソナルな神話が盛り込まれており、謎に満ちたワルとどこにでもいるろくでなしとしての彼が描かれている。スリーブの1つはブラックスプロイテーション(黒人映画)のポスター風になっており、Dixon Jr.を70年代の派手なギャングスタとして見立てている。もしかしたらMoodyをイメージしているのかもしれない。他のスリーブでは、あちらこちらに散らばったPopeyeのフライドチキンとColt 45、Crown Royal、Milwaukee's Bestといった安酒にべったりと"Breakfast / 朝食"とラベルが貼られている。しかし一番興味深いのはDixon Jr.自身がカバーデザイン通りの姿で写っているモノクロの写真だ。白のタンクトップに膨らんだ腹部、ボトルを片手、紙コップを別の手に持っている。ただ違うのはスタジオでどろのように眠っていて、その傍らで小さな子供が彼を起こそうとしているところだ。もしかしたらカバーデザインのイメージはこの男が見ている夢なのかもしれない。MoodymannというのはDixon Jr.が見る夢の世界に存在する自分の姿なのか。いずれにせよ確かなことが1つだけある。彼以外にハウスという音楽をここまで奇妙に、かつ豊かに作り上げることの出来る者はいないということだ。
  • Tracklist
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