- ミニマルハウスシーンでRadu Bogdan Cilincaから評価を獲得している人はほとんど居ない。Rhadooの名で最もよく知られているCilincaはミニマルハウスに対し慎重に考え抜いた上でのアプローチを取ることで自身の評価を築き上げてきた。この音楽スタイルは最早、以前ほど新鮮ではなくなっているのかもしれないが、ミニマルハウスの提唱者でもある何人かの重要アーティストがその最盛期以降も生き延びている。Rhadooもその中の1人だ。
『fabric 72』は流行に沿っている訳でもなければ、奇を衒っている訳でも、ましてや思ったことをストレートに表現している訳でもない。Cilincaが自身のキャリアにおいて最もプッシュしプレイしてきた音楽が収録されていたのなら、おそらくこのミックスは全く違ったものになっていただろう。このミックスはクレジットを隅から隅までチェックするようなオタクに向けたものでもない。彼が世界中でプレイしているような特大のシークレットトラックを使用したりするのではなく、今回のミックスに収録されたほとんどのトラックは自国の未発表音源をフィーチャーしたものとなっている。つまり、ルーマニアならではのスモーキーでスムース、そしてしっかりと抑制が効いたハウストラックが連なっているのだ。
本作のトラックリストは、今日までミニマルを聞いてきた人にとっては親しみやすいものだろう。"Jazzocorason"は比較的、名の知れた存在であるCristi ConsとVlad Caiaの共同プロジェクトSITによるトラックだ。このトラックによってミックスは非の打ち所の無いスタートを切り、静かなボーカルと跳ねるリズムがYourayoやVisullucidら新鋭アーティストのトラックへとつながっていく。唯一、ルーマニア産ではないトラック、Wulf-N-Bearの"Raptures Of The Deep"のCraig Richardsリミックスによって、ミックスは一気に加速を見せる。ちなみにCilinca曰く、彼はこのトラックのオリジナルをプレイしまくっているという。2/3を過ぎる頃にはBarac Nicoleの"Frou Frou"が登場。本ミックスのハイライトだ。ここまで抑制してきた展開から、スナップの効いたリズムとキャッチーな中域の展開が見事に浮かび上がって来る。
『fabric 72』を聞き終わるまでに、Cilincaの選曲スキルがハッキリと証明されている。ミックスのつなぎは完璧で、収録音源そのものもそうだが、その音源同士の組み合わせも非常に面白い。70分全体を通じてミックスがだらけたりすることは一切無く、全曲がハイクオリティなトラックだ。本作はCilincaの20年弱に及ぶ活動を凝縮しているというよりも、ルーマニアハウスの現行を切り取ったものだ。この役割において彼は見事に役目を果たしていると言えるだろう。しかしそれ以外にもミックスとして素晴らしい仕上がりであり、今から20年経ってミニマルという音楽を振り返ったとき、このCDが埃を被っているようなことはないのではないだろうか。
Tracklist 01. SIT - Jazzocorason
02. Adrian Niculae – Contrast
03. Yourayo - Blueprint
04. Visullucid - Eramarble
05. Xandru – Chapo
06. Vlad Radu - A2
07. Wulf n’ Bear - Raptures Of The Deep (Craig Richards Remix)
08. VincentIulian - Rman 2
09. Tulbure – Stalker
10. Rhadoo - Circul Globus
11. Faster – Protocol
12. Traian Chereches - Fast Lane 4
13. Dragosh - Have A
14. Barac Nicolae - Frou Frou
15. Laurine Frost - Let's Feed The Wolf (Petre Inspirescu Remix)
16. Vlad Caia – Ticktockclockityclock
17. Diogo - Fearnot