Max Loderbauer - Transparenz

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  • Max Loderbauerがこれまでソロでレコードをリリースしたことがなかったというのは、衝撃的な事実だった。ベルリンを拠点に活動するこのプロデューサー、サウンドエンジニアは長きに渡る豊かなキャリアを気付いてきた。90年代、影響力のあったSun Electricのメンバーであり、Tobias Freundと共にnsi.として実験的なテクノを制作、Moritz Von Oswald Trioでの活動や、カルト的な人気を誇るECMの楽曲のリミックスをRicardo Villalobosと手掛けたことが挙げられる(余談だが、80年代後半にはFisherman's FriendというEBMグループにて活動をしている)。全てのことを考慮すると、Loderbauerはベルリンにおいて最も際立った電子音楽のアーティストの1人であることは間違いないが、今日までの間、実際のところ彼だけの手による作品というものを聞いたことがない、というのもまだ事実だ。そのため、今夏、彼のソロデビュー作となるアルバム『Transparenz』がひっそりとNon Standard Productionsからリリースされたときには、少しばかり驚いた。 『Transparenz』は彼の様々な一面が相互に絡み合った仕上がりとなっており、まさにLoderbauer純正の作品と言って良い。サウンドデザインがメインの聴き所ではあるのだが、温度や感情といった要素も多分に含まれており、普段この類のアヴァンギャルドな音源(Rashad Beckerのアルバムと比べると気軽なものだが)で感じられるものよりも温かみがある。もっとも、1曲目に収録された"Giant Hug"のトラックタイトルそのものが示すほど温かな抱擁感があるわけではない。"Ssseq"や"Shelf"には緩やかにリズムが刻まれるが、そのリズムにのって体を動かすことはないだろう。"Slowrag"と"Eleg #2"の両曲には力強いコード転換がある一方、"Jea"は湧き上がるようなアルペジオによるトラックとなっている。しかしアルバムを通じてメロディアスと言えるほどではなく、Loderbauer自身が撮影した写真によるスリーヴ同様に全トラックは鬱屈した空気を内包している。 全体として眺めると、『Transparenz』は、抽象的なイメージが各々、異なる雰囲気と形でもって展示されたギャラリーにいるかのようだ。いくつかの場面ではクラウトロック(特にTangerine Dreamが思い当たる)が持つアンビエント感覚を掻き立てながら、ある種の宇宙観を刺激する。それ以外にも、異世界を感じさせるのに十分なリズムとサウンドデザインの実践が行われている。"Shelf"を聴くと何故この男とVillalobosが作業を上手く進められるのか、その理由が非常に良く分かる。本アルバムの端々から感じることが出来る、高次元の明晰さと極限に精製されたミニマリズムはECMを彷彿とさせる。彼らは「静寂の隣にある最も美しいサウンド」を信条としていたが、このアルバムではその言葉が真に迫ってくる。Loderbauerはもしかすると彼の仲間と同様のスター性は無いかもしれない。しかし『Transparenz』を聞けば彼が真の職人であることに気付かされるはずだ。
  • Tracklist
      A1 Giant Hug A2 Gamshag B1 Slowrag B2 Eleg #2 C1 Ssseq C2 Jea C3 Au D1 Shelf D2 Kontur