Dommunelive presents My Bloody Valentine

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  • 閉所恐怖症を引き起こすような、たった50人程しか収まらない渋谷にある地下の一室から飛び出し、その100倍のキャパシティはあるであろう広大な東京国際フォーラムでDommuneがイベントを開催するのは少し冒険的なことかもしれない。しかしそれは、創設者である宇川直宏が仕掛ける、My Bloody Valentineの国内最新コンサートの場としては完璧な場所だったのだ。また、世界で最も音について気難しいアーティストとして有名な彼らを満足させるという任務に、Dommuneはピッタリだっただろう。その音質のレベルの高さで知られているDommuneと、アイルランド出身のシューゲイザーバンドのタッグはまさに夢の競演であった。 Dommuneは、彼らのトレードマークでもあるスタジオを飛び出した企画を行ったことが過去に何度かあるが(例えば幕張メッセを舞台に開催されるフェスティバルFreedommuneなど)、今回のギグは彼らにとって、一般的なライブ・ミュージック・マーケットへの初参戦となった。どちらかというとこのマーケットにおける経験が浅い彼らが本イベントを開催するということを疑問視する声が挙がることは全くなく、参加者の多くにとってはDommuneがこういった内容のイベントを企画するということ自体が魅力的だったように思えた。同年代のアーティスト達に比べると、彼らが日本を訪れることはそれほど多くはないが、My Bloody Valentineのファン達はダブリン出身の4人組のパフォーマンスを拝むチャンスが2013年だけで2度もあった。2月には新木場Studio Coastへ登場し、その次は夏フェスシーズン真っ最中にFuji Rockへ出演している。しかし、後者のパフォーマンスはどう考えても目算違いな内容だった。彼らに似合わずもの静かで、リハーサル不足が伺えたギグは、追い打ちをかけるような土砂降りの影響で何度も中断を強いられるという惨事に見舞われてしまい、コアなファン達は彼らのトレードマークでもある全てを凌駕するようなノイズを満足に体感することができなかった。そして今回のギグが発表されるや否や、Dommuneは当日会場の電圧を240ボルトにまで上げ、128デシベルのサウンドを実現するということを宣言した。 会場のスタッフは当日、来場者全員にエントランスで耳栓を配布していたが、サポートアクトの相対性理論による演奏については耳栓の必要はあまり感じられなかった。東京を拠点とする謎のポップ・アンサンブルによる曲がりくねったような楽曲群は、この日の演奏ではほぼフラットに聴こえていたのだが、シンガーであるやくしまるえつこは一見ライトセーバーのような音響装置を手に持ちながらパフォーマンスをしてみせ、そこだけは見ていて楽しくなるような瞬間だった。彼らの演奏時間はイベント全体から見るといくぶん短かったように思え、BorisやMerzbowのような、より爆音を鳴らすようなアーティストの方が適切だったのではないかと感じた。 もし、相対性理論が演奏している間にサウンドシステムが慣らされていたら、Kevin Shieldsとその仲間達が音の調整をするのにたいして時間はかからなかっただろう。My Bloody Valentineのセットは、人気トラック"Sometimes"のお馴染みのコードで幕を開けた。彼らがこの曲をセットリストに組み込むことは珍しいのだが、ここ東京が舞台となった映画『Lost in Translation』のサウンド・トラックとして使用された曲をこの日演奏したのは疑う余地のない選曲だったと言えよう。1991年発表の『Loveless』の収録曲である"Soon"や"Only Shallow"、"To here Knows When"に、デビューアルバム『Isn't Anything』から"Feed Me With Your Kiss"、そしてシングル曲の"Cigarette In Your Bed"や"Honey Power"などの往年の名曲を聴いていると、この夏のフェスティバル・シーズン中ずっと世界各地でパフォーマンスを披露してきた彼らのサウンドは、ますますパワーアップしたように思えた。ズラリと並んだ、様々な形や色、サイズのアンプやプリアンプの数々はステージの見栄えをより一層引き立てており、プロジェクターで背面に映し出されていたミニマルなヴィジュアルよりも、それら機材のディスプレイの方がずっと興味深かった。 バンド側に若干のミスはあったものの、サウンドシステム自体は期待通りの鳴りで、間違いなくこの日のショウの主役だった。My Bloody Valentineのユニークなサウンドを強調するような、リヴァーブやディストーションなどのうねりによる微妙な音の変化は、ただ単に大きな音が出るだけでなく、同時にクリアな音を再現するサウンドシステムを必要とする。筆者の耳が爆音に慣れるまでに数曲を要したが、それ以降はバラエティ豊かな音の要素を拾い集めるという作業が非常に楽しかった。ギターの鋭いサウンドが終始うなり続けていたが、Bilinda Buthcerによる眠気を誘うようなヴォーカルとColm Ó Cíosóigの逆上したようなドラムは、バンド全体のサウンドの中でも一段と際立って感じられた。もし1点不満を挙げるとすれば、今回のコンサートは”新曲”のショウケースとして告知されていたのだが、今年リリースされた『m b v』からのトラックは実際はほとんど演奏されず、セットリストの中に組み込まれたのは"Only Tomorrow"、"Who Sees You"と、"Wonder 2"のたった3曲だった。だが、言うまでもないが、彼らのセットのラスト・トラックとして有名な"You Made Me Realise"の"ホロコースト"セクションに入ると、それまでの時間プレイしていた楽曲群はどうでもいいことのようにさえ感じてしまった。その後我々は座っていた最前列のシートを離れた。最初の席からの眺めはもちろん素晴らしいものであったが、スピーカーから出力全開で鳴らされる爆音を十分に感じられることができなかったため、1番大きな音を聴く事ができる中央寄りの席へと移動した。選曲ミスかと思われる"bravado"の演奏中、筆者はしばらく耳栓を外し、内蔵に響くようなホワイトノイズを感じながら辺りを見回したところ、他の観客達はそれぞれ狂喜に満ちて踊っていたり、静かに椅子へ着席して目を閉じながら半ば瞑想に耽っているような様子を見せていた。一言で表わすと、今回のギグはまさにMy Bloody Valentineらしいものであった。ショウの終了後に聞こえてきた圧倒的にポジティブな感想は、Dommuneが今後、メジャーなライブ・マーケットで成功を収めるであろうことを証明している。次なるステップは、彼らのサウンドシステムに見合ったアクトを見つけ出すことだろう。