Boards Of Canada - Tomorrow's Harvest

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  • Boards Of CanadaのMarcus Eoinは先週the Guardian紙に掲載された貴重なインタビューでこう語った。「わたしたちを取り巻く環境のなかには、時間に左右されないタイムレスな要素があるのです。都市的な生活環境のなかにおいては、どうしてもいま生きている時代やその音楽、ファッションなどを(好むと好まざるにかかわらず)意識せざるをえないものですが。」こうした現代からの隠遁生活を好むこのスコットランド出身のデュオが、トレンドの雛形から遊離した音楽を創ること自体はまったく驚きではない。いまやクラシックとなっている1998年のデビュー作『Music Has The Right To Children』以降、Boards Of Canadaは密室的なシステムに基づいた制作を続けており、他の誰にも真似できない彼らだけの音楽を創り続けている。 あなたがもしこのグループに文句をつけるとすれば、それは「彼らは自分たちのために創造した世界から一歩も外へ出ようとしないじゃないか」という意見だろう。『Music Has The Right To Children』以降、たしかに彼らは賞賛すべき音楽を残してきている。しかし、リスナーはそのプライヴェートな世界観をどれだけ見せつけられてきただろう?2005年にリリースされた前作アルバム『The Campfire Headphase』にはいくつか新たなサウンドが織り込まれてはいたが、薄暗がりから浮かび上がって空気中に霧散するようなギターやメジャー・コードのキーに対して「大胆な飛躍」という表現は到底似つかわしくないものだ。この最新作『Tomorrow's Harvest』にしても、結局彼らはどこにも行こうとはしていないことがわかる。そう、彼らが何度も横断してきた幽玄な土壌を僕らはまたしても見せつけているのだ。もちろん、おびただしいほどの鳥の鳴き声をバックには何らかの新しいサウンドを見つけることもできるだろう。しかし、彼らはレジェンドと呼ばれるにふさわしい固有の色褪せないサウンドの個性を持ち合わせていると同時に、フォーミュラ(規格)化されたサウンドをまったく新しい印象で鳴らすこともできるということを忘れてはならない。霧深い彼らの世界観を再び見せつけられるこのアルバムは、彼らのこれまでのキャリアの中でも最もダークかつパラノイア的で、鋭敏にフォーカスされたものでもある。 不協和音のアルペジオとむせぶようなファズで幕を開ける『Tomorrow's Harvest』は、もしMichael Mannの映画のためにJohn Carpenterがサウンドトラックを書いたらこんなレコードになるのではないか・・・という印象だ。まるで一週間以上にもわたってしとしとと降り続ける霧雨のごとく、このテーマはアルバム全体を覆っている。時折、その厚い雲に切れ間が覗くものの、そうした瞬間に鳴っているサウンドはかつてのBoards Of Canadaの作品にはなかった臆面もないゴージャスさだ。"Cold Earth"には彷徨うようなメロディと心地よいビートという、これまでにも何度も見せつけられてきたBoards Of Canadaならではのサウンドを持ち合わせているが、たっぷりと残された空間は奇妙なコードとリズミックなニュアンスのために明け渡されている。高域を掻きむしるようにフィルター処理された幽玄なピアノとストリングスによって導かれる"Nothing Is Real"にはどこか明るい日差しのような感覚を与える。しかし、その曲の大部分ではひんやりとしたアンビエンスと錯綜したドラム・パターンが流し込まれ、何か別の大きな意味性を仄めかすかのようにずるずると引っ張られていく。これらのヒントはすべて、アルバム中最も荒涼とした地点でもある"Semena Mertvykh"(ロシア語で「死の種(たね)」という意味だそうだ)へと導かれ、楽曲全体を覆い尽くすベースの律動の上ではホラー・ムービー調のストリングスが居心地悪そうに浮かんでいる。これらのサウンドはやがてありえないほどじっくりと時間をかけたフェードアウトと共に消え去っていき、アルバムがついに終幕を迎える最後の不穏な15秒間をリスナーは暗闇の中で置き去りにされる。 それにしても奇妙なのは、こうした不穏さとは裏腹に決してリスナーを沈鬱な気分にさせないというところだ。これはおそらくこのアルバムにおけるペースの妙によるところが大きいのではないだろうか。明るい展開が熟考したうえで織り込まれ、昨今のアルバムでは稀有なほどの物語性を与えられているのだ。繰り返されるモチーフと入念なスタジオ・ワークに満たされたこの『Tomorrow's Harvest』はとりわけ(ベッドルーム的な)密室でのリスニングにこそぴったりとフィットする。注意深いリスナーでさえも、このアルバムの世界観が何を示しているのか容易には掴みきれないだろう。Boards Of Canada固有のタイムレスなサウンドには、僕らが決して飽きることのない謎掛けが仕掛けられているのだ。
  • Tracklist
      01. Gemini 02. Reach For The Dead 03. White Cyclosa 04. Jacquard Causeway 05. Telepath 06. Cold Earth 07. Transmisiones Ferox 08. Sick Times 09. Collapse 10. Palace Posy 11. Split Your Infinities 12. Uritual 13. Nothing Is Real 14. Sundown 15. New Seeds 16. Come To Dust 17. Semena Mertvykh