Omar-S - Thank You For Letting Me Be Myself

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  • Omar-Sの最新アルバムがつい最近Hard Waxに入荷した時の話だが、普段風変わりなレコード紹介で知られるこのベルリンの名店も、さすがにこのアルバムのトラック群には言葉に窮したとみえる。このアルバムのプロダクト・ページには"big room"や"don alert"といった科白もなければ、おなじみの"TIP!"という表現さえ見当たらなかった。そこにはただ一言だけ、"House."と書かれたのみだったのだ。 Hard Waxは別にこのリリースに対して痛烈な批評をしてやろうという気もさらさらなかったはずだ。しかし、この表現の簡潔さはひとつの興味深い点を浮き彫りにしている。Alex O. Smithについて我々が語れる余地はまだあるのだろうか?このデトロイトのプロデューサーは10年前のデビュー以来憎たらしいほどに一貫性を保ち続けており、そのスタイルはほとんど揺るぎなく、2009年にTheo ParrishのSound Signatureからたった1枚だけ12インチをリリースしたことを例外にすれば、彼の強烈なアナログ・クラブ・チューンはすべて彼自身のFXHEからリリースされ続けてきた。Omar-Sのこれまでリリースされた作品群はおしなべて一定のヴァラエティに富んだものだが(その徹底したDIY的手法もまた尊敬すべきものだ)、そこには本当の驚きや発明といった瞬間はなかったというのも事実である。彼の音楽やその手法は他の誰とも間違いようもないほどオリジナルなものではあるのだが、同時にそれらはあくまでも「ハウス」という枠組みに属したものでしかないとも言える。 前作となるアルバム、『It Can Be Done But Only I Can Do It』は彼の作家性というべきものを雄弁に物語っていたが、今回の『Thank You For Letting Me Be Myself』というタイトルからは彼が自分のスタイルから決して離れないであろうことを示唆している。それはアルバム全体からも如実ににじみ出ている。このアルバムにはもちろんおそろしく高品質なハウス・ミュージックが収められているが、そこには他のダンス・アーティストがときおり陥りがちな作為性はまったく見当たらない。これまで以上にOmar-Sらしさが横溢していながらも、そのクオリティと言う点ではやはりこれまでの彼のバックカタログと同じ地平に位置しているものだ。ハードエッジな"I Just Want"(ミックスはLuke Hessの手によるもの)やロウファイで愉快な"Hellter Shelter"など、なかには出色と言えるトラックもある。同時に、なんとなく流し聴きしてしまいそうな別段印象的でもない展開もある。とりわけ、コラボレーション・トラックにおいてそうした傾向は顕著に表れる。これまでのOmar-S作品でもたびたびコラボレートしているL'Reneeの熱の入ったヴォーカルも不自然なほどにトラックと遊離していて、勇ましいマシーン・グルーヴが前面に押し出されてようやく安堵させられるという印象だ。"The Shit Baby"におけるD.Taylerのピアノ・ジャムはその演奏自体文句のつけようもないものだが、やや投げやりな印象も受けなくもない。 このアルバムのリリースがアナウンスされた今年始め、Omar-SはJuno Plusのインタビューに答えて「俺はこのアルバムを最初から最後まで聴き通すことができるような、良質なリスニング・アルバムにしたいんだ」と語っていた。たしかに、この滑らかな変貌ぶりとそこに投影された擬似的なタフな人物像からは、彼がなにを意図していたのかがわかる。それでも、私自身としてはこの彼の声明に異議を唱えてみたい。このアルバムはたしかに1時間ちかくを通して聴き通せる強度を持っているし、多かれ少なかれ彼らしいスタイルの幅を提示しているものの、その中盤で溢れ出すのはやはりおなじみのひりひりするようなドラムと埃っぽい鍵盤だ。Omar-Sはこれまで"Psychotic Photosynthesis"や"Here's Your Trance, Now Dance!!"をはじめとしたクラブ的な空間を超越したトラックを残してきているが、このアルバムでの彼はあくまでもDJ的な音楽性の枠のなかにとどまっている。そう、とどのつまり『Thank You For Letting Me Be Myself』はOmar-Sならではの量的な豊富さはさておき「ハウス」以上でも以下でもない、ということだ。
  • Tracklist
      01. I’ll Bring U Ah Lil Sumpin Back 02. I Just Want 03. Air Of The Day 04. Be Yoself 05. Rewind 06. The Shit Baby (CP-1 Played By D.Taylor) 07. Hellter Shelter 08. Amalthea 09. Tardigrade’s 10. Thank U 4 Letting Me Be Myself 11. Ready My Black Asz 12. Messier Sixty Eight 13. DumpsterGraves 14. Its Money In The “D”