Bonobo - The North Borders

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  • Bonoboが2010年にリリースしたアルバム『Black Sands』を俳優に例えるとしたらRalph Fiennesだろう。それまでBonoboがリリースしてきた大胆なサンプリング中心のアルバム群に比べれば、『Black Sands』は品良く洗練され、なおかつ洒落ていた。Si Greenにとって3枚目のフルレングスとなるこの作品も、それまでと同様に陰鬱なムードに満たされ、唇が震えるかのように繊細なストリングス・アレンジからは深いエモーションが湧き出していた。あらゆる意味で、このアルバムはFiennesと同じくオールドファッションな英国的洗練を投影しており、ヨーロッパと北米の両方でヒットした。そして、この『The North Borders』は彼の新たな移住先であるニューヨークで録音された作品だ。 『The North Borders』もまた、きわめて英国的なサウンドでありながら、その感性はよりモダンなものだ。2012年にリリースされた『Black Sands Remixed』においてGreenが選んだリミキサーの人選には、ロンドンのベース・シーンに対する彼の共感が反映されていたが、この作品でも崩れた2ステップ・リズムとダウンビート的なメロディが大きな特徴のひとつとなっている。 MJ Coleの影響の影がちらつく"Emkay"にはアルバム中最もタフなビートが奢られている一方、Don't Wait"でのビートは形式的なまでにハウシーでありながら、そのペースと煌めくようなメロディはまるで松明を片手にゆっくりと行進しているかのようだ。 Greenはたしかに英国を離れたかもしれないが、このアルバムでの彼は『Black Sands』の音楽的な領域からそう遠く離れてしまったわけではない。ドリーミーなメランコリックに満たされたムードはそのままに、プロダクション面での進化はこれ見よがしにならずに音楽的な豊かさを獲得している。"Cirrus"でのざわめくようなチャイムとパーカッションのレイヤーはまるで絹の布地のような感触で、"Jets"でのカットアップされたヴォーカルとサブベースの隙間で爪弾かれるハープはサウスロンドン的と言うよりは、まるでBrialが『Narnia』(ナルニア国物語)のサントラを手掛けているかのようだ。 やはり注目が集まるのは"Heaven For The Sinner"でのErykah Baduによる客演だろう。とはいえ、このネオ・ソウルの重鎮スターの存在をもってしてもアルバム全体の完成度の中では決して目立ちすぎてはいない。Grey Reverendによる甘いヴォーカルをフィーチャーした"First Fires"はかつてMassive AttackがTerry Callierとコラボレーションした"Live With Me"を彷彿とさせ、Greenが他の誰よりもMassive Attack的なサウンドアプローチを見事に再現できることを示している。 これはまさに壮麗で完成度の高いアルバムというべきで、『The North Borders』は『Protection』や『Sincere』、もしくはSBTRKTのデビューアルバムにも双璧を成す偉大なエレクトロニック・ソウル・アルバムである。より実験的な音楽を求める向きには単なるディナー・パーティのための音楽として見過ごされてしまうかもしれないが、この『The North Borders』が有する魅力と興奮、そして神秘的なタッチはまさしくディナー・パーティに迎えたくなるほどの質の高さを備えている。
  • Tracklist
      01. First Fires feat. Grey Reverend 02. Emkay 03. Cirrus 04. Heaven For The Sinner feat. Erykah Badu 05. Sapphire 06. Jets 07. Towers feat. Szjerdene 08. Don't Wait 09. Know You 10. Antenna 11. Ten Tigers 12. Transits feat. Szjerdene 13. Pieces feat. Cornelia
RA