Petre Inspirescu - fabric 68

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  • チャウシェスクの独裁政治を経て冷戦終結後のまっただ中に放り込まれたルーマニアにおける、苦痛と流血を伴う社会変革の時代に育ったRadu Dumitru BodiuことPetre Inspirescuはミニマル・エレクトロニック・ミュージックの旗手としての現在の地位を築き上げるまで途方もなく果てしない旅路を経験しなければならなかった。DJを始めて間もない頃、彼は新しいレコードを買うためにプラハやブダペストまで片道24時間以上もかけて赴いていたそうだ。彼は自らが育ったルーマニアの辺境の街を「時間というものが引き延ばされ、どこまでも地平線が広がる場所」と表現していたが、そうした歴史的・地理的両面に起因する広大な距離感はこの『fabric 68』にも息づいている。彼がその初期に大きな影響を受けたRicardo Villalobos同様、Inspirescuもまたこれまで遠い距離にあると思い込まれていたアカデミックな音楽世界と4/4ビーツの世界を一体化して提示する方法を模索しているのだ。 この『fabric 68』において、Inspirescuは彼のレーベルYojik Conconのために制作されたであろう未発表のトラックでまとめあげている。それらは小気味の良い、タイトに編まれたビートによって縫い合わされ、アルバムが進むごとにゆっくりと、かつ繊細にその密度を高めてゆく。"Lumiere"では穏やかで蠟燭の火のような光の揺らぎが"Chestii Socoteli"での吹きガラスのような繊細さに自然と変化してゆき、そこに"In Miriste"での断片化された勇壮なチャントが繋がる。そこからさらに"Anima"での得体の知れないドローンがムードを一掃し、"Chosen"での遠くで鳴り響くようなゴングの音色によってその景色が突然に開かれてゆく。 "FH Dub"に辿り着く頃には、すでにそのビートはそれまでの木槌のような質感からより人工的な質感へと変化してきており、そこには侵食するようなベースラインがまとわりつき、木管楽器が奏でるくすんだフレーズと見事に共存している。"Vastu' Da Gama"では室内楽的なアプローチとテクノの完全なる融合とごく自然な同居が実現されているように思える。この作品を「ただ同じビートが1時間なり続けているだけ」としか感じられない浅薄なリスナーにはわからないだろうが、このミックスは実に壮大な旅を約束してくれる。ラストの"Piano Preludes"になってようやくそのビートは消散し、その姿が視界から去っていくのだが、アルバム中唯一彼の本名であるBodiu Radu Dumitruでクレジットされたこの曲で、その新たな機軸の片鱗を垣間見せてもいる。
  • Tracklist
      01. Petre Inspirescu - Lumiere 02. Petre Inspirescu - Chestii Socoteli 03. Petre Inspirescu - In Miriste 04. Petre Inspirescu - La Cuba 05. Petre Inspirescu - Anima 06. Petre Inspirescu - Chosen 07. Petre Inspirescu - Seara-n Crang 08. Petre Inspirescu - FH Dub 09. Petre Inspirescu - Flurimba (Yojik ConCon) 10. Petre Inspirescu - Basso Ostinato 11. Petre Inspirescu - Vastu' Da Gama 12. Petre Inspirescu - Dansul Libelulei 13. Petre Inspirescu - Je T'aime Lori 14. Petre Inspirescu - Murgul 15. Bodiu Radu Dumitru - Piano Preludes