Tiga Bakso - Rasuna EP

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  • ベルギー発のレーベルVlekはここ数年、繊細かつ饒舌なエレクトロニック・ミュージックを送り出している。ここに届けられた新作は、ドイツとインドネシアのハーフであるプロデューサーTiga Baksoによるフリー・ダウンロード・シリーズの2作目にあたる。Baksoは旧東ドイツ出身で、元製本工にしてメディア・デザイナーに転じたという興味深いバックグラウンドを持つ彼にとってこれがファースト・リリースである。ある意味ではこのユニークな出自は彼の音楽制作のスタイルと合致している。このシリーズの1枚目であったLP、Wanda Group『Cleaners』同様、この作品にはひび割れた質感の控えめなアンビエントが軸に展開されており、大げさなギミックに頼ること無く、繊細なディテールに対しひたむきに集中している。 Wanda Group『Cleaners』が明るくも閉所恐怖症的なメロディを押し出していたのに対し、Baskoが展開するサウンドの世界は遥かにダークで抑制されている。この作品に通底しているのは歪んだテクスチャーであり、控えめながらエレクトリックな質感だ。データが交錯してひしめき合うようなサウンドであり、老朽化した機械から発せられる穏やかな軋みのようなサウンドである。 1曲目の"Tuesday Aft"はおそらくこの作品中最も牧歌的なムードが強い。このトラックの金属質なシンセ・トーンや均等に並べられたタムが醸し出す疎外感のある快適さからすれば、「牧歌的」という表現は正反対かもしれないのだが。いっぽう、最後の"Knutenne"は最も外部に開かれた印象で、タイトなドローンやディストーションがかったキックドラムがきわめてアブストラクトなヒップホップグルーヴの隙間に滑り込んでいく。 とはいえ、このEPを支えているのは2本の軸であり、それは鎮静感と不安定感の絶妙なバランスだ。壮麗な"Mono Gurke"では、機械仕掛けのサウンドが柔らかくよじれて軋みをあげ、その上には濁ったパッドが覆い被さり、ありのままに言えばハーモニーを作り出していく。ほかにも、"Raaven"ではパルス状に弾けるノイズがたった一度だけ透明な雨粒のスプレーのようなシンセ・トーンと交錯する。すべてのトラックが非常に短くまとめられており、なかなか全体像は掴みづらいかもしれないが、Baskoのアイデアが随所に溢れた非常に充実した作品でもある。是非、今後もこうしたリリースを続けてほしいものだ。
RA