Ryat - Totem

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  • たとえそれほど詳しくなくても、最近のBrainfeederがどんな内容のリリースをしているかわかるはずだ。そう、ぐちゃぐちゃに脱線したサンプリングまみれのヒップホップがここ最近のこのレーベルにおける主流だ。しかし、そんななか変化の兆しも見られる。オランダ人プロデューサーのMartynによるタフなハウスもそうだし、そして現在LA在住のChristina RyatによるサウンドもまたこれまでのBrainfeederらしさを引き継ぎながらも、そのコラージュ性の高いビーツに捻りを加え、さらにでこぼこしたものに仕立て上げている。まず耳に飛び込んでくるのはRyat自身のヴォイスだ。神経質でありながらも同時に力強さも感じさせ、彼女の繊細なビーツの隙間で浮かんだり消えたりを繰り返す。"Windcurve"でのそのヴォイスはほとんど言葉にならない呻きのようにも聴こえるのだが、緊張感のある荒々しさに満ちた"Owl"ではにわかにフレーズと寄り添いはじめて彼女のプロダクションにおけるデジタル的な変調と共に導かれていく。 このあたりになると、RyatのヴォイスがBjörkのそれに酷似していることにも気付きはじめるはずだ。無論、彼女のヴォイス・テクニックはBjörkのそれに比較すれば到底荒削りなものでしかないのだが、それでも彼女のヴォイスが持つ個性はまったく侮れないものだ。また、Ryatが創る音楽は90年代後半のグリッチや過激なプロセッシングから大きな影響を受けていることも透かし見ることが出来るはずだ。"Howl"でのヘヴィーに加工されたハープのサンプルにまとわりつく彼女のヴォイスや"Hummingbird"でのストリングス・サンプルなどを聴くと思い出されるのはやはりBjörkの『Homogenic』からの影響だ。 Ryatの独創的なサウンド・マニピュレーションはときに暴力的で無慈悲なものだが、このアルバムはそう単純な一面性だけの作品ではない。そこには陰陽というべき要素が潜んでいる。"Footless"ではインダストリアルで野蛮なベースラインが身の毛もよだつようなリズムにねじ込まれているが、ひとたびゴージャスなピアノセクションに突入し、さらにアコースティック・ギターによるインタールードに導かれると、アルバムの印象はにわかに華やかさを帯びるのだ。"Object Mob"ではブラスセクションが強烈なノイズとして変化し、力強いホーンのうねりがその絶え間ないリズムと融合するやいなや突然ストリングス・セクションが浮かび上がり、まるでハリウッド映画のような演出を思わせる。なんとも複雑怪奇なサウンドだが、あくまでも統制のとれた複雑さであり、その衝突とカオスはじつに刺激的で活き活きとした感覚を呼び起こす。 このアルバムは全編にわたって実に才気に溢れており、その合間のインタールードでは"Invisibly Ours"のようにアコースティックであったり、"Seahorse"ではさざ波のようなチャイムが用いられていたりするのだ。船酔いするような揺れや不安定で散漫なヴォイスなどを除けば、アルバム全体が非常に均整のとれたものにしあがっていると言えよう。1つのトラックのなかにあまりにも多くの要素が詰め込まれているので、リスナーがときに置き去りにされたり当惑させられることもあるかもしれない。そうした地盤のずれをかろうじてつなぎ止めているのはRyatの水晶のように透き通った身悶えするようなヴォイスであるといえるだろう。
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