Andrew Weatherall - Masterpiece

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  • Erol Alkan、Optimo、Ivan Smagghe、James Lavelle・・・この一見バラバラの個性を持つアーティストたちの共通点とは?それはみなAndrew Weatherallの強い影響下にある、ということだ。もちろん、それは音楽的な手法の話ではない。アーティストとしてより根本的なスタンスの話だ。もはや伝説的な存在感を放つこのイギリス人プロデューサー兼リミキサー兼トレンドセッターの根本にあるものは、ごく真っ当なパンクDJとしてのスピリットだ。だからこそ、WeatherallがMinistry of Soundの良くも悪くも格式張ったMasterpieceシリーズの最新作でミックス(正確に言えば選曲を担当しただけで、ほとんどミックスはしていない)を手掛けるというニュースを耳にしたときはやや懐疑的な印象を持ったものだ。さらに言えば、複数回のリスニングに耐え得る3枚組のミックスを作り上げるというチャレンジは相応のリスクを伴うものであり、あまり成功例は少ないと言っていい。SOSWill Saulの『Balance』のように、あえて一貫性を犠牲にして大胆なスタイル的転換を図る者もいる。幸い、Weatherallはこうした危惧を巧妙に回避し、彼の長く複雑な、それでいて興奮に満ちたキャリアを総括するような調和性をこのミックスで実現してみせている。 36曲が収録されたこの『Masterpiece』において、いわゆるインディー・ダンス期のWeatherallを反映した選曲はミックスのごく冒頭と最終盤に感じられる程度のものだ(CD1の1曲目、Weatherall自身のニュー・ゴス的なプロジェクトThe Asphodellsと、CD3の最後の収録曲であるA.R. KaneによるポストC86期/初期Primal Screamとも呼応するサイケデリック・ギターポップ)。しかし、これらの曲が配置された場所は非常に効果的であり、実際の曲の数や長さ以上の意味を持っていると言えるだろう。全体的に言えば、この3枚のCDではダビーな感覚や洗練された実験精神、ハウスにおける最もメロディックな側面、適量のコズミック・ディスコ(DisjokkeやPrins Thomasらによるリミックス)などで構成されており、そこにGrinderman、The HorrorsそしてPrimal Screamといったオルタナティブ・ロック・バンドをWeatherall自身がダンス・リミックスしたものが織り交ぜられている。The Asphodellsのトリッピーな"The Lonely City"やこれまたトリッピーなWeatherall自身のリミックスによるCut Copyの"Sun God"といったトラックではギターが存在感を示しているが、このミックスを通底しているダンスフロア主義の前では、あくまでも脇役にすぎない。 テクニカルな面で言えば、このミックス全体はおどろくほどシームレスに繋がっており、ほとんど120BPM以上にはいかない(これはWeaterallがここ数年手掛けているパーティ、Love Letter From Outer Spaceでのルールを踏襲しているのだろう)。とはいえ、Kasper Bjørkeのグルーヴィーな"Man from Venice"やApiento & Coのドラマティックなアレンジが効いた"The Orange Place"など、思わず心を奪われるような聴き所が満載だ。2004年に彼がリリースした『Fabric 19』ミックスに比べても、この『Masterpiece』にはよりタイムレスな要素が色濃く注ぎ込まれており、同時に現代的なモダンさもしっかりと反映されていると言えるだろう。