Mr. Beatnick - Sun Goddess EP

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  • ヒップホップとNu-Jazzにルーツを持つロンドンのプロデューサー/DJ、Mr. Beatnickは昨年リリースした出世作「Synthetes EP」以来となる新作をようやくリリース。ディープハウスとブギーをミックスしたそのEPは、今回もSemtekのレーベルであるDon't Be Afraidから届けられた。新作とはいえ、その内容は前作からひとつながりになっているような印象であり(前作のタイトルトラックから窺えたMetro Areaからの明白な影響は別として)、柔らかく丸いシンセのメロディとエレガントなドラム・プログラミングが際立っている。おそらくはアナログ機材をメインに作られたものと思われるが(少なくともそのサウンドを聴くかぎりではそうだろう)、ここに収録された4トラックはすべて「少ない機材でどれだけ豊かな調和を形成できるか」というお手本のような曲が並んでいる。特筆すべきバランスの高さを持つレコードであり、すべてのサウンドが収まるべき場所にことごとく収まっている——そんな印象だ。 "Sun Goddess"はどこかNebraskaの「A Weekend on My Own EP」を思わせるレイドバックしたディープハウス・トラックで、ミュートされたベースラインとフェンダー・ローズが奏でる豊かなコード、デリケートなシンセが一体となって実に豊潤なムードを醸し出す。"Beneath the Reef"、"Shifting Sands"といったトラックでは若干タフな色合いを増したファンクが存在感を主張しながら、どこか紅潮したような艶やかさはそのままキープされている。Reclooseをよりドリーミーに仕立てたような、もしくはFloating Pointsから若干ジャジーさを抜いたような趣もある。"Savoir Faire"においてBeatnickはより意欲的な試みを展開し、やんちゃなイタロ・ディスコと風変わりなハーモニーを色彩豊かにミックスさせている。全体的に見て、そのサウンドの色彩やスタイルといったあらゆる面において非常な多様性を持ったレコードである。そのどこか陰影のある、ルーツ回帰的な指向の強いハウストラックと言う点ではRush Hourあたりの諸作(もっと正確に言えば100% Silk)に近いとも言えそうだ。それと同時に、このラフなファンク感覚はHot Naturedのファンにもアピールする類いのものだ。実に親しみやすい作品だが、ただ「フロア受けするレコード」という表現だけでは勿体ないという気もする。
RA