• Share
  • Airheadはその初期作品から確固たる存在感を示している。浮遊感と優美さに彩られたその緻密なビーツは、かつて一度だけコラボレートしたJames Blakeとの共通点も感じさせるものだ。Brainmathから発表した2枚のリリース以降は暫くの間沈黙を守っていたこのロンドン出身のプロデューサーは、R&S Recordsから堂々たる帰還を果たした(そう、ちょうど2010年のJames Blakeのように)。そしてその作品は、これまでの彼の作品以上に強力かつ親しみやすい内容となっている。 少なくとも"Wait"の冒頭ではこれまでの彼の作風と大きく変わった印象は受けない。"wait!"と叫ぶおなじみのサンプルをワイルドに捩じ曲げ、ピッチシフターのレイヤーを被せることでまるで溶けたワックスのようにその音節が滴り落ちてゆく。まるでYeah Yeah Yeahのインディー・ロック・アンセム"Maps"をブートレッグ・スタイルでリメイクしたかのような趣もある。楽曲を粉々に解体したうえで、ギター・リフを見事に再生させることで静かに蠢き続けるトラックと雲のように広がるリヴァーブとルーズなローエンドが組み合わされた色調にメランコリックなニュアンスを加えている。 Aサイドはその最後で劇的なクライマックスが用意されており、続くBサイドにも心地よい余韻を残している。Bサイドを飾る"South Congress"は日だまりに包み込まれたかのような単音のピアノではじまり、その完璧で格調高いハーモニーは"Wait"でのぎこちないメロディとも見事な対比を見せている。そこに地を揺るがすようなベースラインが隆起し、それらは抜き差しを繰り返しながら丹念にひとつの大きなクライマックスを用意する。ドラマはこれだけでは終わらない。さらにチェロが渦巻き、Explosions In The Sky級のポストロック調ギターが登場するとトラックは一気に爆発する。その壮大さは特筆すべきものだ。彼のように繊細なビートメイクで名を上げたプロデューサーがよもやこうしたラウドなトラックも手掛けることができるとは驚きだ。ベース・ミュージック界で最も寡黙なプロデューサーのひとりによる、新たな一面を垣間みることができる。
RA