Scuba - Personality

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  • 2011年のヒット・シングル"Adrenalin"での目を見張るような陶酔感やSCB名義でここ数年残してきている地下室テクノでScubaを知るリスナーでさえ、このScuba3作目にあたるアルバム『Personality』を初めて聴いた際には彼がふざけているんじゃないかと疑ってしまう瞬間があるかもしれない。とはいえ、ベルリンとロンドンを行き来するPaul RoseことScubaが'08年のデビューアルバム『A Mutual Antipathy』のリリース以来ダブステップ界をリードするプロデューサーである事実に間違いはない。2010年にリリースされた傑作『Triangulation』がアンビエント的な恍惚と金属質なテクノを描写することでダブステップ界随一の統一感を獲得したアルバムだとすれば、表面上はダブステップの伝統主義という硬直化した枠組みの中で活動していたに過ぎなかったのかもしれない。 だが、彼の運営するレーベルHotflushのリリース群や昨年リリースされたDJ-Kicksシリーズ最新作を通して、彼は徐々にサウンド的な限界を積極的にはみ出し、ジャンル間に横たわる澱んだギャップを乗り越えようとしている。George FitzgeraldやPariah、Joy Oといったアーティストたちと同様、Scubaもまた自らのサウンドをよりハウスに対して接近させているのだ。閉塞感を打破しようというこうした動きを理解してはいても、やはりこのアルバムからの先行カットとなった"The Hope"に対しては誰もが驚きを禁じ得ないはずだ。90年代のビッグビートとセクシーなハウスをブレンドしたかのようなこのトラックは、野次にも近いような厳ついスポークン・ワードのループに満たされ、トランス的で痛烈なシンセが姿を現すまではクラシックでドラッギーなグルーヴでひたすら引っ張っている。 "The Hope"はアルバムの他のトラックと比べてとりたてて目立つトラックではないが、それは単にこのトラックを構成するテンプレート的スタイルが存在しないという事実によるものだろう。ともあれ、このアルバムはダンスミュージックの過去における無数のスタイルに対するScuba自身のオマージュとも言えそうだ。彼の過去作品中でも最もダンス・フレンドリーな要素に溢れたこのアルバムに唯一通底しているものがあるとすれば、それは彼のHotflush流儀ともいえる目眩を憶えるようなヴォーカル・サンプルの使い方だろう。ゴージャスな"Tulips"や"July"といったトラックはいかにも夏向けのラヴァーズ・ミュージックといった趣でありながら、"Underbelly"や"Cognitive Dissonance"ではずっしりとした力強さと滑らかなグルーヴを見事に同居させていて、その成熟したディープハウスのなかにはダビーな感覚とサブベースがしっかりと潜んでいる。他にも、太いビーツとけたたましいシンセの音色が映える"Action"はどこか90年代テクノの熱っぽさを感じさせるし、美しいルーツ・ハウス的ムードに仕立てた"NE1BUTU"のピアノ・パートは80年代のアメリカのTVドラマのテーマ曲をリミックスしたかのような錯覚を持たせる(もちろん良い意味で、だが)。 このアルバムを十分聴き込んでみると、こうした遊び心の交じったノスタルジアによって統一感のあるアルバムというより多種多様なトラックを集めたものであるかのような印象を残している。他のプロデューサーはこうした多様性はそう易々と実現できない類いのものだ。ともあれ、前作『Triangulation』は当時のダブステップにおいてもっとも液体的ですばらしく統一感のあるアルバムであったし、抑制された構成のなかにもしっかりと金属的な質感を強調し、ひとりのアーティストの作品と言うよりは滑らかに紡がれたミックスのようにも感じられたものだ。いっぽう、個性豊かなトラックに溢れたこの『Personality』はともすればひどく散漫な印象を持たれてしまうかもしれない。しかし、この散文によって綴られるようなぎくしゃくとした構成はScuba自身があえて志向したものであるはずだ。