Nina Kraviz - Nina Kraviz

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  • RekidsやUnderground Quality、Naifからのリリース群を通して、モスクワ出身のNina Kravizはその淫靡かつ繊細なディープハウスというスタイルを確立させてきた。そのゆったりとした空間の使い方、ほとんど骨組みまでストリップダウンさせたプロダクションこそ彼女独自のスタイルであり、さらにそこへささやくようなヴォーカルや悪戯めいたメロディ・パターンがこっそりと忍び込む。ここに届けられたRekidsからのセルフ・タイトルとなるデビュー・アルバムでも彼女独特の繊細なニュアンスは貫かれており、艶かしくもむせ返るようなムードとともに全編で横溢している。 アルバム・リリースに先立ってリリースされたシングル "Ghetto Kraviz" はKraviz自身によるヴォーカルサンプルが真夜中のようなパッドとともにゆっくりとトラックに寄り添う内容だったが、このアルバムでもまた期待に違わぬものに仕上がっていると言えるだろう。妖しげなコードを組み合わせ、ときにかすかな囁きとなって聴こえてくる彼女自身のヴォーカルが淫靡かつ肉感的なハウスグルーヴやアンビエント的なサウンドと共に溶け合っている。時折、そのサウンドは物憂げで気怠いムードになったかと思えば、にわかに恋煩いのような貪欲さを見せたりもする。すべてこのアルバムのために録り下ろされた14ものトラックは、総体として大きな存在感を放っている。それは肉体によって作られ、肉体のために存在するサウンドとその構造だ。Kravizの作品は常にダンスフロアーで不特定多数の人々と共に楽しむためにも過不足なく機能するものだが、それと同時にトラックを通して表現される彼女独特の繊細さ(例えば "Working" での見事なアウトロを聴いてみるといい)はキャンドルを灯した部屋でヘッドフォンで没入して聴きたくなるような魅力を持っているのだ。 例えば "False Attraction" のように心地よいパッドとシンプルなドラムマシーンが配されたトラックはひたすらじわじわとした導入部を経て、ようやくKravizの静寂さを秘めたヴォイスが滑り込むとトラック全体はにわかに生き生きとした表情を見せ始める。"Love Or Go" はそれよりもさらに力強いグルーヴを有したクラシックなディープハウスだが、その危うさとじわじわとした感覚は際立っている。一方、このアルバム中でも最も魅惑的なビートを持つ "Turn On the Radio" ではディスコ的な色気を優雅に取り入れ、アルバムの終わりを美しくまとめる "Fire" ではKate Waxあたりを彷彿させるような暖かくも気怠いシンセポップを披露してもいる。 そのほかでは、Kravizは"Aus"や"Taxi Talk"、"Choices"といった煌めくようなディープハウスと"Walking in the Night"、"4 Ben"、"The Needle"といったアンビエント的なインタールードを交互に点在させるような形でアルバム全体を構成しているのだが、どのトラックにも共通して言えるのはそれぞれのトラックの冒頭から耳を奪うような瞬間が用意されているという点だろう。このアルバムは、言うなればProsumer & Murat Tepeli『Serenity』のようなロマンティックさを含んだレトロ主義と、EfdeminやRoman Flugel、はたまたIsoleeのアルバムのような繊細なディテールを有した作品が交差するポイントに位置する作品だと言えよう。このNina Kravizによるデビュー・アルバムは今年最も待望された作品であるとともに、静かな熱狂を引き起こすものになるだろう。