Todd Terje - It's The Arps EP

  • Share
  • 昨年Todd Terjeが「Ragysh」をリリースした際、Jack Haightonはそのレコードがどれほど素晴らしいかをひたすら考察した。Terjeは2005年に各地で絶賛を浴びた「Eurodans」を発表してからというもの、ずっと沈黙を守り続けていた。5年後、彼が「Eurodans」を上回る仕上がりの作品を引っさげて帰還するなど、一体誰が予想しただろう。文字通り「Ragysh」はその前作を大きく上回る内容で、そのクラブヒットによりTerjeはスポットライトの最前線に返り咲いた。"Ragysh"や"Snooze 4 Love"といったトラックが今も世界中のフロアを席巻する最中(もちろんこの2曲は今もその輝きを失っていない)、Terjeはさらなる傑作を放った。この「It's the Arps」はギラリとした光を放つモダン・ディスコEPであり、語弊を恐れずに言えば彼にとっての最高傑作である。 "Inspector Norse"はリリース前からも評判が高かったトラックであり、Terje周辺のDJたちは去年の秋ごろからヘヴィープレイしていた。YouTubeでもすでに数千回以上の再生回数を誇っている。まさにその夜のクライマックスを飾るにふさわしいトラックであり、鮮やかなディティールと壮大なメロディは翌日までクラウドの耳にこびりついて離れないはずだ。このトラックにはアナログ・プロダクションの実験という側面もあり、彼の他のEP同様にほぼすべての音色がARP2600で作られている。ARP2600はJean Michele JarreからSoulwaxに至るまで、あらゆるアーティストに愛されている屈指の名機である。しかし、同時にそのすぐれたソングライティングも決して見逃せない。ディスコ黎明期から現在に至るまで、数えきれないほどの有名無名のアーティストたちの痕跡がTerjeに集約されているかのようでもある。それはただひたすらに良い時間を過ごしたいという快楽性に基づく、なんとも捉え難い感覚だ。しかし、その名状し難い感覚こそがあらゆるクラブミュージックの本質であり、すべてのエレメントが絡み合いそして爆発する"Inspector Norse"のようなトラックを3分半ほど聴いてみれば、その感覚はリスナーの内面におどろくほど滑らかに入り込んでくるはずだ。 たしかに、「Ragysh」に比べるとこのEPには"Snooze 4 Love"のようなキャッチーなトラックは入っていないし、そのインパクトという点では劣るかもしれない。しかし、作品全体としての充実した完成度という点ではこのEPのほうが一枚上手だ。Moodymannのレコード、はたまたベルリンのAcido Recordsの作品のように、この作品もまたEP全体を通して聴かれるべきレコードであり、メインの骨格を成すトラック群をつなぐカラフルなインタールードも実に効果的に機能している。そのインタールードは、まずバレアリックとDrexciya的なSci-Fi趣味を掛け合わせたような"Myggsommer"、Tangerine Dream "Love On a Real Train"を思わせる160bpmのアルペジオに彩られた"Swing Star (Pt 1)"、そしてSpace Dimension Controllerの"Temporary Thrillz"を彷彿とさせる深夜のコズミック・ディスコ・チューン"Swing Star (Pt 2)"が含まれる。これらのトラック単体で見てみれば、"Inspector Norse"をはじめとする過去のTerjeが手掛けた作品が持っていたほどのマジカルさには欠けるかもしれないが、EP全体としての仕上がりの密度は明らかに今回のほうが上回っている。このレコードが2012年のベスト・レコードのひとつに挙げられないとしたらそれはまったくの偽りだろう。