Native Instruments - Traktor Kontrol S8

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  • 2010年の終わりに初めてTraktor Kontrol S4を手にした時、筆者はDJにおけるテクノロジーが大幅に飛躍したと感じた。Traktorのパラメーターのほとんどすべてが手元でコントロールできる – これはMIDIコントローラーのマッピングに苦労していた我々にとっては素晴らしい恩恵だった。S4の視覚的フィードバックはTraktorを使用するDJたちをラップトップから切り離すことを可能にした。しかし、そこにはまだ改良の余地が残されていた。そしてNative Instruments(以下NI)も同様に感じていたようで、昨年10月、彼らはTraktor用ハードウェアの最新版となるKontrol S8を発表した。2画面の高解像度ディスプレイがコントローラー本体に組み込まれたS8はS4の更に先を行く製品に思えた。 S8で高解像度ディスプレイの他に目立つのがそのサイズだ。58.5cm x 38.7cmというサイズはS4よりもかなり大きく、重量も約1.5倍となっている。重量の増加はスタンドアローン・ミキサーとして機能させるために新たに内部に組み込まれた機器による部分が大きい。また、全体のレイアウトも大幅に変更されており、特にデッキコントロールセクションが大きく改良された。S8ではジョグホイールは取り除かれ、X1F1を組み合わせたようなレイアウトになっており、その上部にはLEDディスプレイが配置されている。中央のミキサーセクションも目立たないものの、非常に重要な変更が行われており、Remix Deckコントロールが組み込まれたためか、ループコントロールが取り除かれ、代わりにキューミックスとヴォリュームノブが追加された。また、フィルターとトラック用のオン・オフボタンが追加されており、トラック用のオン・オフボタンを使えば、簡単にインプットを外部(ターンテーブル・CDJ)と内部(Traktor)で切り替えられるようになっている。 S8ではフロントパネルとバックパネルも一新され、ハイエンドのDJミキサー同等の機能が組み込まれている。フロントパネルには各チャンネルのクロスフェーダーのアサインスイッチと、クロスフェーダーカーブの調整ノブが配置されている。バックパネルには大量の入出力ジャックが備わっており、入力用としては4系統のRCA ピンジャック・2系統のマイク端子(XLRと1/4インチ)が用意され、出力用としてはメインアウト(XLRまたはRCA)、ブースアウトに1/4インチが用意されている。外部MIDI機器を接続したい場合もUSB経由での接続が可能で、この場合はS8をオーディオインターフェイスとして使用できる。オーディオインターフェイス(24bit/48kHz)の場合は入力4系統、出力2系統(メイン・ブース)となる。 次にLEDディスプレイを見ていこう。S8の目玉と言えるこのディスプレイは、この機材に何ができるのかを理解するには非常に重要なセクションだ。まず、Browseエンコーダーを押すと、ディスプレイにはTraktor Proと同じプレイリストが表示される(ブラウズ・ビュー)。S8でのブラウジングはクリック可能なBrowseエンコーダーとBackボタンのおかげで非常に分かりやすい。プレイリストのソートはディスプレイ下部に配置されているパフォーマンス用コントロールを使用することで切り替えられるが、不思議なことにこの機能はこのレビューの執筆時にはマニュアルに記載されていなかった。デフォルトの設定ではディスプレイにはアーティスト名・トラック名・BPM・キー・レートが表示される。これだけでも十分に機能するが、ジャンルやコメントへスクロールできるようになっていれば更に好印象を得られただろう。 次にトラックをデッキにロードすると、トラックの波形がディスプレイに表示される。S8の波形表示はiOS用Traktor DJに似ており、ポップオーバー型のワークフローになっている。LEDディスプレイの左側には小さなボタンが2個配置されており、これらを使用すれば現在ロードされているトラックのBPMとキーの表示と変更が可能だ。コントローラーから目を離さずにトラックのキーを即座に表示・変更できる機能は、S8最大の特徴のひとつと言えるだろう。Traktor Pro側のキー検出機能とこの機能を組み合わせれば、ハーモニー感のあるミックスをパーフェクトな形で生み出せる。 LEDディスプレイには他にも役立つ機能が備わっている。まず、解析が正確に行われなかったトラックのグリッドの微調整に特化したモード(ビートグリッド・ビュー)が備わっている。また、Traktorのエフェクトを使用する際にも便利だ。S8では同時に4系統のエフェクトの設定と使用が可能で(ディスプレイ下に配置されているノブとボタンがユニット3と4にリンクしている)、これらはすべてコントローラーで直接設定できる。更にはタッチ・センシティブに対応しているため、エフェクトのコントロールに触れればディスプレイ上にエフェクト名とその数値が瞬時に表示される。 もうひとつのS8のディスプレイの便利な機能は、Remix Deckへの対応だろう。トップパネルの端に専用のDeckボタンが2個配置されたことで、非常に簡単にメインとRemix Deckの切り替えが行えるようになっている。このボタンを押すと、ディスプレイにはTraktor Pro 2と同じRemix Deckが表示され、S8の大型のパフォーマンス用パッドを使用すれば、Remixセットのサンプルプレイバックやループ・サンプルの取り込みが簡単に行える。また、パフォーマンス用コントロールを使用すればRemix Deckの4スロットのフィルター・ピッチ・エフェクトセンドの調整も行える。Remix Deckは様々な作業が可能なため、トラックが現在どのような状態になっているのかを把握するのが難しくなる時もあるが、そのような場合にS8のディスプレイによる視覚的フィードバックは非常に便利だ。 S8にはこれらの他にもフリーズモードや交換可能な防水仕様のフェーダーセクション、タッチ・ストリップなどの機能があり、これらについて延々と説明することも可能だが、何はともあれ、NIのエンジニアとデザイナーの仕事ぶりには非常に感心した。唯一の懸念は、筐体のサイズとLEDディスプレイの脆弱性で、堅牢なケースに入れずに現場へ持ち運ぶ際は躊躇してしまうだろう(重量もかなりのものだ)。これを踏まえると、S8はMaschine Studioの系譜上に存在する製品といえ、スタジオやクラブに常設しておく製品に感じられた。とはいえ、Traktorユーザーとしては、現時点ではこのコントローラー以外の購入は考えられない。 Ratings: Cost: 4.1 Versatility: 4.8 Build: 4.6 Ease of use: 4.6
RA