RAの連載企画、My Favourite DJのコンセプトは、「DJにそれぞれのお気に入りのDJを１人挙げてもらう」というシンプルなものだ。新進気鋭の若手、レジェンドDJ、ローカルヒーローなど、制限を与えず自由に選んでもらい、様々な視点から各々の憧れの存在について語ってもらった。

Bok BokはDJ Slimzeeのプレイを聴いて価値観が変わった

傷ついたレコードみたいに同じフレーズを繰り返してるからうんざりされても仕方無いけど、DJ Slimzeeと彼がプレイした音楽にどれほど俺が影響を受けたか、何度言っても言い足りないね。この音楽には普通の入り方をしなかったんだ。昔からガラージは俺の周りにあったけれど、あまりピンと来てなくて、Slimzeeが当時最先端だったインダストリアルでグライミーなニュースクールものをかけているのを聞いてやっと理解できたんだ。彼のDump ValveのミックスCDやMinistry Of Soundから出した『Street Beatz』なんかはすり減るぐらい聴いた。そしてもちろん、若い頃のWileyや更に若いDizzeeなんかが聴ける『Sidewinder』のミックスとか（Limewireで64kで落としたのを覚えてるよ！）。一時期、これらのミックスと海賊ラジオしか聞いてなかった。こういった音楽はそれまでの音楽を忘れさせてしまうぐらい俺にとってインパクトが強かったんだ。

今だからこういう言い方ができるが、あの頃聞いていたのは最もピュアで生々しい種類のロンドン産テクノだった。ダーティーなストリートのスムーズな音楽。冷酷なアレンジメントにAir Maxライクな機敏なリズム。中でもSlimzeeは刺激的なトラックを見つけ出すことに関してずば抜けた才能を持っていて、毎回物凄いパワーとカリスマ性を感じた。彼のプレイを聴いて以来、価値観が変わったよ。Fruity Loops VIPみたいに、脳が再構成された気分さ。

Davide Squillace にとって、Derrick Mayは未だにベストDJの１人

お気に入りとしてDerrick Mayを選んだというよりは、子供のころから彼に影響を受けてきたから挙げている。俺が物凄く衝撃を受けた最初のレコードをかけた張本人なんだ。彼が多くのDJの憧れの的であり、シーンを象徴するアイコンだから選んだという訳ではないと思う。

俺が彼を選んだのは、彼は技術面でも選曲でもズバ抜けている完璧なDJ／エンターテイナーだからだと思う。彼の場合、レコードをそのまま聴くよりも彼のミックスで聴いたほうが良いんだ。2つの曲を混ぜて3つめの曲を作り出してしまい、それは1曲目とも2曲目とも全然違うものに聴こえたりする。彼のDJを聞いていると、数時間という短い間に様々な感情を掻き立てられて、音楽的な旅をしている気分になる。

最初に彼のプレイを聴いたのは、随分前にロンドンのBlack Boxで見た時だった。未だにあの時の彼のミックスを覚えているし、オーディエンスと心が一つになっていたのも印象的だ。一枚の長いレコードを一晩中聴いている気分だった。今でも、彼はベストDJの1人だ。

Ryan Hemsworthは毎回、Sam Tibaのテンポやジャンルを度外視した自由さに驚かされる

俺はクラブで育ったわけじゃないし、今でも完全には理解していない。しかしその無知さを利用して、直感のみを頼りムード作りをすることを心がけている。Sam TibaみたいなDJを見ると、まず第一にムードやフィーリングを優先することは間違ってないと再認識できるし、やる気を起こしてくれる。ジャンルやテンポを考えるのは二の次なんだ。ジャンルなんてどうだっていい。Tibaは決断と優柔不断のちょうど良いバランスを持っている。だから、Kelly RowlandとJ popを半速度でミックスして、その後倍速でUsherを混ぜることができるんだ（ピッチをいじることもなくそのままで）。それでちゃんと成立させることができる。

そして彼は今トップに君臨している。俺はR&Bが好きだ。新譜も旧譜もチェックしている。しかし彼は忘れた頃にTwistaの懐かしいヒットを突然かけたり、皆がDigitalDrippedで新譜をチェックしてる間に逃した名曲をドロップしたりする。ファンとしては嬉しいが、DJとしては若干イライラするね。何しろ、彼がかけたキラーチューンが今度は欲しくなってしまうから。彼に一度、テンポをあまり気にしすぎないほうがいいと言われたことがある。彼の最近のミックスでは、どの曲もテンポが合っていなかったが、カオスにならず奇跡のように上手く収まっていた。俺の大好きなDJは変なこと、楽しいこと、リスキーなこと、感情を具現化することを第一に優先する。それがTibaなんだ。

PezznerはRub N TugのThomas Bullockのミックスでディスコ欲を満たす

俺が追いかけるDJ は多くないが、Rub N TugやWickedのThomas BullockはフェイバリットDJだ。80年代、俺がDJを始めるずっと前、ThomasはDJ HarveyやTonka Crewと一緒に伝説的なパーティーで回して腕を磨いた。その後サンフランシスコに移ってWicked Soundsystemとパーティーをやって、ニューヨークに引っ越してからEric Duncanと共にRub N Tugを始めたんだ。

何回か彼を見る機会があったが、とてもインスピレーションを受けた。大抵のDJが従うテンポやジャンルの境界線に縛られる事なく、彼は巧妙に、個性的にダンスフロアの人々を惹き付ける。アシッドロックとレアなハウス、ポスト・ファンクやディスコといったものがごちゃ混ぜなのは当たり前。彼の名作ミックス『Live At Zanzibar』は常に手の届くところに置いておいて、ディスコ欲を満たしたい時はいつでもかけられるようにしている。

Paul WoolfordはBen UFOの大胆なプレイスタイルにインスピレーションをもらう

僕が最も影響を受けたDJは、皆パフォーマンスの一環として変わった手段をとることを恐れず、エネルギー転送を行える人達だ。僕がダンスフロアで最高な時間を過ごしたときのことを思い出すと、毎回、完全に場の空気を手中に収めていて、いつだってガラっと流れを変えることができるような人達を聴いているときだった。

Derrick Carterの荒々しいグルーヴの乗り方、時に無理矢理彼のビジョンにあてはめてしまうやり方、洗練と乱暴が共存する彼のスタイルは昔から大好きだった。Derrick Mayも同じ理由で好きだ。そして今、恐れを知らない選曲とストーリー性のある展開でこの伝統を受け継いで、独自の道を切り開いている男がいる。それがBen UFOだ。

彼のような曲の組み合わせをするDJを他に知らない。ノリノリな流れの中に持って来るソウルフルなコントラスト、そしてその後に続くグルーヴ感の変化などといったキー要素が挙げられるが、彼の幅広さを言葉で説明しようとしても無意味。耳で聴いて感じてもらうしかない。毎年彼のファンが増えて行くのを見ていて、感慨深いものがある。たまに彼とバック・トゥ・バックをやることがあるが、その度に彼のディギングに関する猟犬並の臭覚に驚かされている。彼のような男はいないよ。