Roman Flugel - Fatty Folders

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  • Roman Flugelのように、そのサウンドにおける真に独創的なスタイルを確立したプロデューサーはこのエレクトロニック・ミュージックの世界でも希有な存在だ。すでに名の知れ渡ったサウンド・デザイナーとして、そして細部にまでこだわりを見せる職人肌のアーティストとして、FlugelはAlter EgoあるいはSoylent Green、はたまたEight Miles HighやSensoramaといった複数の名義を使い分けながらアシッドハウスや精巧に加工されたIDM、そしてもちろんテクノなどさまざまなスタイルの音楽をリリースしてきた。いつだって豊かで複雑で、かつ繊細な広がりを持つFlugelの音楽はひとつの楽曲の中であっても複数のジャンルにまたがる音楽的要素を忍び込ませる。さて、Dialからの素晴らしい2枚のハウス・シングル「How to Spread Lies」と「Brasil」を経て、いよいよフルアルバム『Fatty Folders』がここに届けられた。 このアルバム『Fatty Folders』はまさに多種多様なサウンドをコレクションしたアルバムだ。Dialというレーベルからのリリースであること、そして先行してリリースされた2枚のシングルの内容を考えれば、Flugelが現在のトレンドでもあるふわっとした質感のハウスグルーヴに接近していると考えても無理はない。しかし、プロデューサーというものはなにも好き好んで自分自身を狭いカテゴリーにあてはめるようなことはしない。ある意味では、この作品は彼がここ数年取り組み続けてきたさまざまなレコーディング手法の集大成であるとも言えるのだが、その密度や正確さたるや他に比類がない。 もちろん、このアルバムには非常に洗練されたハウス・トラックも入っている。昨年先行リリースされたかのエレガントな"How to Spread Lies"は、併せて収録された"Rude Awakening"における、夜を彷徨うようなシンセやこのアルバムのハイライトのひとつでもある"Song with Blue"におけるくすんだネオ・クラシック調のピアノやジャジーで点描的なパーカッションのゴージャスさと見事に呼応している。しかし、いかにもDialのレーベルカラーに合わせ込んだ曲を別にすれば、ここにはFlugel独特の気の遠くなるように繊細なディティールが随所に詰め込まれている。ヘッドフォンで聴けば、幅の広い刷毛でざっと塗ったような感覚のある"Lush Life Libido"におけるシンセのうねりも非常に繊細に練り込まれたものであることがわかるし、初期のPerlonやPlayhouseを彷彿とさせる不安定なリズムのよろめきはほとんど日本的とさえ思える独特のメロディ感覚と相まって、往年のシカゴハウス的な強固なトラック構造を獲得していることがわかる。 同様に、"Bahia Blues Bootcamp"といったトラックは複数のシンセの音色がせわしなく交差しながら独特の暖かなムードを形作っていくのだが、アシッド的なシンセや剥がれ落ちそうなシンセが入り込んでくるとにわかにクレイジーな様相を呈してくる。"The Improvisor"はコントロールされた激情、といった趣で、信号のように淡々と拍を刻むリズムの裏側でなにかきわめてマッドな感覚が見え隠れしている。 アルバム中でも最も興味深い部分のひとつは、アルバム中盤になって現れる。それは箸休め的にアルバム中盤へ配置された"Krautus"というトラックだ。広大な広がりのあるシンセのレイヤーを幾層にも重ね、James Holdenが昨年リリースしていたDJ Kicksの最終盤での展開にも近いような、新しくコズミックな感覚にあふれたアンセム・トラックである。Flugelはこのトラックをただ単にアルバム中盤の転換的なトラックに留める事はせず、むしろこのトラックにアルバム中でも最も独創的で予測不可能な瞬間を込めたのだ(Prince ThomasのようなDJならばこのトラックのロング・ヴァージョンを熱望することだろう)。たしかにFlugelらしい凝りに凝ったプロダクションではあるが、このアルバムの核はその抑制された非常に美しいシンプルさの追究にこそあると言えるだろう。決して派手な部類のアルバムではないが、たとえ長く彼を知っているつもりのリスナーであってもかならず驚かせるだけのものが込められていると言えよう。このアルバム『Fatty Folders』は間違いなく彼のキャリアの中でもベストの作品と言って良いはずだし、今年リリースされたアルバム作品においても最良のもののひとつとなるであろうことは確かだ。
  • Tracklist
      01. How to Spread Lies 02. Lush Life Libido 03. Deo 04. Bahia Blues Bootcamp 05. The Improviser 06. Krautus 07. Rude Awakening 08. Song with Blue 09. Softice 10. Don't Break My Heart 11. PianoPiano