Marcel Fengler - Berghain 05

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  • テクノDJがしばしば直面するチャレンジは、「普段のセットを80分のMIX CDへいかにまとめるべきか」というものである。ベルリンのBerghainのレジデントDJたちのように、日常的に8時間以上のロングセットをこなすことを得意としているDJたちなら尚更困難なチャレンジだろう。普段のロングセットをどのようにしてホームリスニングとして機能できるように要約するべきかという問題については、Marcel DettmannやBen KlockといったDJたちがすでにその抜きん出たテクノ・ミックスで証明している。Berghainはその所属アーティストにロングセットの機会を与えると同時に、彼らへトラック制作を課しておのずとより短いタイムスケールでの感覚を磨かせているとも言える。 Marcel FenglerはDettmannやKlockほどの注目はまだ集めていないにせよ、Berghainのオープン以来その卓越したロングセットでの能力を磨きあげてきたDJである。比較的保守的なリリース・ペースもあるのだろうが、FenglerというDJはやはりやや控えめな存在感を持ったDJと言わざるを得ない。ベルリンの地元クラウドは彼のセットを目当てにクラブに足を運ぶことは無いし(「彼はもちろんいいDJだけど、いつでも聴けるしね」という感じだろうか)、ベルリンを訪れる観光客もわざわざ彼のセットを聴くために航空券を予約するわけではない。この「Berghain 05」にせよ、これで彼が一挙にスターダムにのしあがることはないだろうが、その一方このリリースによってこれまでのいささかアンバランスな定評が覆り、彼の実力に見合った正当な評価が得られるための助けにはなるだろう。 ヴォーカルはまったく使わず、メロディ的な要素やわかりやすい要素がかぎりなく希薄なこのミックスは、まさしくいつものFenglerのスタイルそのものだ。お世辞にも分かりやすいミックスとは言えないが、「ここでハイハットが入ってくれば最高なのに」と思っていると、まさにそこを狙いすましたようにハイハットが鳴り始めるような気持ち良さがこのミックスにはある。こうした特徴はとりわけトラック7〜16の終盤で顕著だ。1996年リリースのSecret Cinemaによるクラシック"Timeless Altitude"(しかもレアなミネアポリス・ヴァージョン)が現代風にピッチダウンしてプレイされるところから始まるこのセクションは注目のスウェディッシュ・デュオSkudgeの"Man on Wire"で幕を閉じる。 このセクションでのFenglerはまさしく奮闘し、巧妙にグルーヴのレイヤーを重ねながらシンプルなミックスを繰り広げていく。すべてのトラックの並べ方が完璧に調和し、サウンド自体が生き生きとしている。 順序が逆になってしまったが、ミックスの冒頭部に話を戻すと、このミックスはやや厳かなムードで幕を開ける。Peter van Hoesenの"Axis Mundi"(このミックスの為に提供された3つのエクスクルーシヴ・トラックのひとつ)が奏でる液体的なアルペジオは大胆でポジティヴなムードを予感させるが、 Terrence DixonのOctogenリミックスやByetoneのDr.Walkerによるリミックスなどでザラッとした質感の崩れたビーツへと展開する。5曲目のTommy Four Seven "G"をRegisが見事にリミックスしたトラックがかかるあたりでは若干ビルドアップが早すぎると感じるところもなくはないのだが、その狂った飛行もFenglerの"Thwack"をL.B. Dub Corpがリミックスしたトラックがかかるところでさらに加速する。 ミックスの最終盤にも同様の決定的なパートがある。正確に聞き取るにはこのミックスを数回聴き返さないといけないかもしれないが、Skudgeのトラックの終わりがけにReagenz "The Labyrinth"におけるNord Modularのフレーズが絡み付くあたりはまさしくクライマックスにうってつけだ。このクライマックスの瞬間は、同時にこのミックスの空気感がもっとも軽くなる瞬間でもある。この「Berghain 05」はハウスやテクノ、ガラージ、エレクトロ、エクスペリメンタルの隙間を巧妙に縫い、声高な多様性よりもむしろささやかな調和を重んじているようだ。かつてDettmannやKlockがリリースしたミックスがそうであったように、Berghainの冠にふさわしいこのFenglerによるミックスもまた今年の流れを象徴する1枚になることだろう。