Omar-S - It Can Be Done, But Only I Can Do It

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  • Omar-Sという男がどういう人生を歩んできたかを知りたければ、このニューアルバムのタイトルはそのすべてをいみじくも表している。その音楽はもちろん、アートワークやちょっとした引用にいたるまで、そのメッセージは一貫している。そう、「これは俺だけにしか出来ないことなんだ」という強固な主張だ。思えば、FabricがOmar Sに対しミックスCDを録音することを依頼できたのは奇跡みたいなものだったが、はたしてそのミックスCD(『Omar-S - Fabric 45: Detroit』のこと)に収められていたトラックはすべてOmar Sの手によるものばかりであったことはあらかじめ容易に想像できたことだった。他のデトロイト出身のアーティストたちと同様、Omar SことAlex Smithは何者に対しても簡単に尻尾を振るような男ではない。 こうしたアティチュードとは裏腹に、彼自身が創る音楽にはこうした他者への不信めいた要素は無く、ひたすらロウでアンセム的なテクノ/ハウス/アシッドに徹し続けているのは興味深い。たとえば、Actressのようなアーティストが創る音楽が他者への不信や澱んだダークな内面を如実に反映していることとは対照的だ。このアルバムに収められた"Here's Your Trance, Now Dance"のようなトラックを聴けば、たちまちダンスしたくてたまらなくなる。このアルバムを聴いていて唯一居心地が悪く感じたところがあるとすれば、それは"Look Hear Watch"というトラックで、そこではダウンテンポのビーツに乗って5分以上にも及びポルノ映画からのあからさまで卑猥なサンプルがループされている。一服の清涼剤のような短いインタールード的トラック "I Come Over" を挟んで以降は "Ganymede" でのバウンシーなアシッドや "You Wish" での催眠的なキーボード弾き、そしてかつてリリースしたトラックに再び手を入れた "Over You Too" など、比較的良心的といってもいい展開を見せる。 Omar Sが創る音楽における最大の決め手は、ロウな生っぽさと美しさの絶妙なミクスチャーにこそある。"Here's Your Trance" のようなトラックでは潰れたハットや荒くれたパーカッションがその隙間に浮かぶメロディやハーモニーとぶつかりあい、前述のような彼独特の長所をまざまざと見せつけている。"Psychotic Photosynthesis" といったトラックでもそれは同様で、いわゆるトランスと呼ばれる音楽よりもはるかに根源的な陶酔を呼び起こさせてくれる。"Nite's Over Compton" のように一見抑制されたムードのトラックでさえ、彼独特のアクの強さはしっかりと存在を主張してくる。 ここ数年の彼が残してきたディスコグラフィーを見るにつけ、彼ほどその作品にハズシの無いアーティストは見当たらない。他にもRedshapeやShed、Kyle Hallといった人々がそうした「ハズシの無い」アーティストとして思い浮かぶが、Omar Sほど大量のリリースをこなしながらそのすべてにおいてハズシの無いアーティストは滅多にいないはずだ。もちろん、彼は主に自分自身のレーベルを持ち、そこから彼が世に出したいと思うレコードだけをリリースすることが出来るという事実も忘れてはならない。このアルバム "It Can Be Done But Only I Can Do" もまさにそうした延長線上のもとリリースされたレコードだ。このアルバムには駄目なトラックなんてひとつも入っていないし、それどころかものすごく優れたトラックばかりが詰まっている。