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  • この『Close』はこの夏でも一、二を争うほどの明るさを持った作品であると同時に、陳腐にならない程度に幅広いリスナーにアピールできるよう巧妙に作り込まれた作品でもある。タイトルトラックはラヴァーズ・ダブステップとでも言うべきトラックで、非常にストレートかつ酩酊気味の物憂いシャウト、そしてかすれたムードがなんとも言えず印象的だ。非常に簡素な曲ではあるのだが、Hackmanがもともとこの曲を最初にSoundcloudにアップした当時は"I Just Want Your Clothes"というタイトルがつけられており、Alicia Keysの"I just want you close / Then you could stay forever"というリフレインが使われたその曲は"Will You Love Me Tomorrow"あたりの60年代Brill Building的なポップスのようでもあり、そこには古典的なベルやホイッスルの音さえも入っていた。 うってかわって"Satisfy"は非常に丹念に練られたR&B調トラックで、Thelma Houston "Don't Leave Me This Way"のアカペラがシンセサイズされたミッドテンポのニュー・ディスコとでも言うべきグルーヴの上で溶け合い、ぎりぎり陳腐にならない程度のシンセもサウンドトラック的ムードを演出するのに一役買っている。Thievery Corporationの次作ミックスCDにも収録予定のこの蠱惑的なトラックは、しっかりとしたプロダクション、巧みな構成のおかげでギミックっぽさは皆目見当たらない。 唯一、"Your Face Pulling My Hair"というトラックのタイトルはいささかギミック的と言わざるを得ない。ただ、Hackmanは賢くもこのトラックをアルバムのラストに持ってきているので、若干ジョークめかしたこのタイトルもさほど違和感は無い(このタイトルのフレーズはRoberta Flackの"The First Time Ever I Saw Your Face"からヴォーカルをサンプリングしたことに由来している)。このヴォーカルフレーズはにぎやかなハウス調4つ打ちと泡立つようなシンセライン、しっかりとしたサブベースに乗ってスピーカーの左右を漂っている。こうしたアプローチはとりたてて目新しいところは何も無いと言って良いが、Hackmanがこの作品に込めたエナジーとフレッシュさは特筆すべきものがある。
  • Tracklist
      A1 Close A2 Satisfy B Your Face Pulling My Hair
RA