Ricardo Villalobos & Max Loderbauer - Re: ECM

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  • Ricardo Villalobos とMax Loderbauerの最新アルバム『Re:ECM』が完成に至るまで、技術的な面では数年かかった一方、このアルバムのアイディアは10年という年月を経て構築された。Ricardo、Max二人とも、このドイツレーベルECMの長年のファンだ。15歳の頃からレーベルの生み出す音に魅了され、それがキャリア形成のきっかけにもなったと彼らは語る。「ECMのプロダクションからは、『最適なサウンド』とは何かを学んだよ。」「僕たち二人は、とにかく音の質に対して一回も妥協しなかったんだ。」ECMからのリリースは、プロデューサーとしてだけでなく、特にDJとしてもVillalobosに大きな影響を与えた。ECMの作品は、多年にわかってVillalobosのセットに組み込まれている。ディストリビューターでもあるUniversalのスタッフが、彼のDJミックスをEMC側に渡したのをキッカケに、レーベル側が彼にコンタクトを取ったのだ。リミックスアルバムのアイディアが出てくると、Villalobosは長年の友人でもありECMの大ファンでもあるLoderbauerに話を持ちかけた。デモトラックを4, 5曲作り、ECMの設立者Manfred Eicherに聴かせると、ECMの40年分の音源を全て使って良いことを条件にすぐにアイディアはプロジェクトへと姿を変えた。 Villalobosをはじめ多くのアーティストも作業に使用しているLaika Studioは、ベルリンにあるクラブBerghainのちょうど裏にある。そこで『RE:ECM』は数ヶ月かけて作成された。キーボード、モニターそしてケーブルが張り巡らされたモジュラーシステムに囲まれ、彼らのプロジェクトは2009年の秋ごろからスタートした。必要に迫られた事もあり、 最終的にレーベルからの最近のリリースを多く含んだものになった。それぞれのアルバムから曲を引っこ抜くのが不可能だったことも理由の一つだ。 Christian Wollumrød, Alexander Knaifel, Arvo Pärtといったコンテンポラリーアーティストによる、楽器がそれぞれ独立しているレーコドしか選ぶ事ができなかったのだ。こういった楽曲をソースとして、デュオは、フルアンサンブルからマイク一つだけで録音されたようなものまで全てをサンプリングした。 RE:ECMは、ジャズやクラシックミュージックのサンプリングを基に作られた、テクノ系トラックを集めたものではない。むしろ、彼らの特徴は聴き取られるものの、クラブミュージックを彷彿とさせるような要素が一切無いのだ。 Loderbauerの作品には、Moritz von Oswald Trioや nsi.のようなサウンドを感じる部分がある。特に2007年に発売されたnsi. の『Plays Non Standards』だったり。一方Villalobosの作品は、4つ打ちリズムを抜いた『Thé Au Harem D'Archimède』をイメージしてもらうのが良いかもしれない。彼らのアレンジは曲ごとに形を変えながらも、オリジナルの持つエッセンスは忠実に守られている。例えば、 Christian Wallumrødの "Music for One Cat"では、メロディーラインはそっくりそのまま残されている。 "Recat”では、固いほうきブラシでこすったようなリズムに乗せて、弦楽器のメロディーが何か弦楽器に似たような音へと作り替えられている。アルバム全曲が抽象的で、不思議な印象だ。 アルバムカバーにある冗長なライナーでもお分かりになる通り、『RE:ECM』の目指すところは「限界や境界を越えた新しいアイディア」と、とても前衛的な作品だ。VillalobosとLoderbauerは常に表現手段の限界に挑み、エレクトロニックプロデューサーとしては全ての行為やサウンドを、自然発生的でアコースティックなジャズバンドの演奏に限りなく近付けるという意味合いでもある。彼らは、この課題でもあり目標を難なくこなしていった。ソースマテリアルとしてアコースティックなレコーディングを用いたことがライブ感を生んでいる要因だ。オリジナルのレコードはこのアルバムに、エレクトロニックミュージックにはまれな、情緒的繊細さをもたらしたのだ。 『Re:ECM』の特徴でもあるジャズにも似たクオリティーを生み出すことが出来たのは、 おそらくアルバムの最も重要な材料にもなっている、モジュラーシンセサイザーの存在がある。複雑で予想もしないような音が生まれる機材がカオスな要素を作りだし、それが彼ら二人のものだと想像できないようなサウンドを生み出したのだ。一度停止してしまうと、復元、修正することが出来ないモジューラーシンセサイザーでは、制作時間を制約してしまうという障害も生んだが、それ故、アルバムには何かライブセッションを録音したような雰囲気が醸し出されているのであろう。 音響や周波数範囲、モジュラーシステムのイン・アウトなんていうことを気にかけられない人にも、受けの良いのが『 Re: ECM』だ。アルバムは、終始リッチなテクスチャーを保っており、予想もできないような展開の連続だ。 "Reblazhenstva"では、悲しげなコーラス音に優しいエレクトロニックビートが乗っかっている。 "Reannounces"は、民族的なドラムリズムに先住民の叫び声のような雰囲気の一曲。ハープ、クラリネットそしてきらきらと輝くピアノの旋律、奇怪なうめき声、機械の騒音、そして奇妙としか説明しようがないサウンド、一つ一つの音は並外れた美しさを持っている。時には疲れ( "Recurrence")、好奇心で一杯 ("Reblop")、陶酔そして錯乱したような( "Redetach")と、アルバムを通して様々な感情が表現されているのも注目だ。やや複雑に聞こえるかもしれないが、カジュアルにアルバムを聴きたいという人にもおすすめのアルバムだ。 特に「DJ Villalobos」ファンにとってRE:ECMは、ドライかつスノッブな印象を与えるかもしれない。こういったエキスペリメンタルなものは、Loderbauerには親しみがあるものかもしれないが、Villalobosとなると可笑しいのもいい所だ。クラブの要素が一つも感じられないような出来だ。しかし、お気に入りのアーティストの新しい一面を見れた作品とも言えよう。