rural 2019: Five key performances

  • 開催時期を変えて新たな会場で、日本が誇るフェスティバルはこれまで築き上げてきた評判に添えたか? その答えは、圧倒的なイエスだ。
  • Share
  • 様々な深刻な課題を抱える今の日本の電子音楽シーンの中で、ruralは一つの希望の星の様な存在だ。前回までの会場が騒音の苦情で使用継続が出来なくなった事により、主催者は新たな会場を見つけるタスクに迫られていた。息を呑む様な美しい場所だった故に、新会場探しは試練だったはずだ。だが日本の田舎風景は美に恵まれている。幸いにも、彼らはスタカ湖キャンプ場という、温泉街に隣接する標高1300メートルに位置する格好の場所を探し当てた。湖が自然のスモークマシーンとして機能するこの会場で、日本のみならずグローバルなエレクトロニック・ミュージック・カルチャーの祭典として、Akiram En、DJ Yazi、Wata Igarashiといった国内アクト、海外からは、Slikback、Black MerlinやJane Fitzなどを迎えた。日本のフェスティバルが世界に誇れる理由の如何をruralは見せつけてくれた。 そんなruralフェスティバルを、5つのキーパフォーマンスで振り返る。
    Sapphire Slows Sapphire Slowsにとって今年は好調な一年だ。ライブ・アーティストとDJの双方で成長を見せ、ヨーロッパと東アジアにおいてプレイする機会を増やし続ける彼女は、土曜日のForest Stageのオープニングを務めた。どんなアプローチで来るのか興味津々だった。Appleblimの"Vurstep"のForest Drive Westリミックスといった曲で優しく幕開けた彼女のセットは、アンビエントからより酩酊的な曲との間を行き来した。このセットは彼女の臨機応変さとDJとしての面白さ、ジャンル隔てなく様々な時間帯に対応できるDJであることを見せつけた。Cloturの"Hyperspace Travel"やLoose Changeの"Kosovo"といったトラックが、午後の早い時間帯の雰囲気と良く共鳴し、徐々に膨れ上がる観客を楽しませていた。ステージが太陽に照らされ、観客は元気いっぱいで週末を待ち構えている風景の中で、彼女のセットは土曜日のえり抜きとなった。
    Black Merlin 日本デビューにして2つのセットを披露したBlack Merlinはフェスティバルの要のひとつとなった。金曜日にハード・テクノのDJセットを聞かせた後、翌日にはライブセットを披露すべく再登場した。暗闇が訪れステージが霧に包まれたころ、最小限のライティングは、焦点を音楽だけに合わせる狙いだ。完璧にチューニングされたサウンドシステムでプレイされる彼のパフォーマンスは強烈で、レイヴと音響マニアのリスニングバーで聴かせる様な音の中間といったところだった。パプア・ニューギニアでのフィールド・レコーディングをフィーチャーした彼のアルバム『Kosua』から引っ張ってきた音を中心にセット前半の大部分は構成され、鳥の鳴き声、奇妙な話し声、スピーチ、絶妙なビートが幻想的なサウンドスケープを作り上げていた。後半にかけて、声がキックドラムにとって変わり、彼のクラブ寄りのトラックに近づく様BPMが上昇しつつも、全体的に落ち着いた雰囲気を保ち続けた。演奏が終わると、観客は静寂に包まれ、今し方聴いた内容を咀嚼している様だった。
    Ena 日曜日のLake Stageのクロージング役を務めたのは日本人DJのEnaだ。Lake Stageはキャンプ場から湖の対岸に位置し、美しいクリスタルの光のインスタレーションで灯され、フェスティバルのアフター・アワーズのスポットとなっていた。午前10時半から正午までのEnaの時間帯は、観客のほとんどが起き抜けでさっぱりとしている頃合いだ。ベースの効いた、ダークなアンビエントに重心を置いたセット。複数のトラックを同時にミックスする様は、高いスキルを見せつけ、Horoからリリースされたトラックを含め、彼自身の曲を多く含んでいた。この類の音は、夜のレイヴや、よりインダストリアルなロケーションに合いそうなものの、日本の美しい山並みと霧深い朝にも良く合うということを、Enaは証明した。
    Interstellar Funk 申し分の無いアンビエント・セットを披露したChris SSGから引き継いで、Interstellar Funkは同じ方向性でセットを開始した。Susumu YokotaのEbi名義のリリースなど、環境音的なトラックをいくつかプレイした後に、Rush Hourとも親交の強い彼は徐々にBPMを上げていった。彼の3時間のセットは、コズミックなトリップだった。DJ Solarの新曲"Unless, Of Course, You Have Wings Like A Bat"はハイライトのひとつだった。ある時点で、Philipp Gorbachevの"I Am Saved (Main Mix)"がかかる中、突如音が消え、観客、エンジニア、フロアに居た他のDJの皆が困惑顔で見上げるや、5秒ほどしたところでビートが戻り、大いにフロアを盛り上げていた。こういった予測不可能さが、日曜日の午後の始まりに丁度良い刺激となった。
    Wata Igarashi 高評価リリースに加えて、ヨーロッパやアメリカでのパフォーマンスを数多くこなすWata Igarashiは時の人と言っていいだろう。ruralでの彼のセットもまた、金字塔であった。日曜日の夜の一番盛り上がる時間帯をFunctionから引き継ぎ、3時間に渡る汚点ひとつないテクノを決行。トリップ感のあるスペーシーでグルーヴィーな音を淀みないエネルギーとドライブを保ち続けプレイした。彼自身のプロデュースによるトラックを中心に、未リリースの希少でキラーなトラックで構成されていた。日本のテクノ・シーンの新たな金星として頭角を現している彼の実力を見せつけるセットとなった。
    Photo credits / Ken Kawamura - Lead, Black Merlin, ENA, Wata Igarashi, Sky, Sutakako Camping Ground, Slikback, Lights Yumiya Saiki - All others
RA