Paramount 2019

  • 陽気なヴァイブスとソリッドなテクノ。群馬のサーキット場を舞台に野外パーティーParamountが7周年を迎えた。
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  • 7回目の開催を迎えたParamount Festivalは、もはや日本のフェスティバル・シーンに欠かせない存在となっている。テクノに焦点を当てたラインアップは、日本の野外好きのテクノ・ファンたちにエクスペリメンタルなタッチも提供することで、その名声を得てきた。群馬県にあるレーシング・トラックを借りた今年の会場は、野外にメインステージを一つ、夜のサブフロアとして丘を少し登ったところに建つ大きな山小屋のインドア・ステージの2フロア構成だ。 A Made Up Soundがプレイを始めるタイミングで会場に到着すると、まだ全体的に半分空っぽといったところで、東京方面から少しづつやってくるダンサーたちを太陽が待ち受けていた。この明るい日差しの下で彼がどんなセットを展開するのか興味津々だった。グルーヴィーでメロウなサウンドのチョイスは、長い週末を始めるのにうってつけの選択だった。セットの中盤、テンポをあげて、トリッピーでファンキーなハウスに移行した。この頃には、クラウドの数は数百人に増えていた。カラフルで自由な格好をしたダンサーたちがスピーカーの前で解放的に踊っている中、無料で提供されている自転車でサイクリングを楽しむ者、芝生の上でくつろぎながら、自然の中でビールを飲んだり友人と近況を話し合う者などおのおのだ。 5時になりJames Ruskinに変わると、彼はムードを変える決断を取った。A Made Up Soundがスムーズでレイドバックな音だったのに対して、Ruskinは何もかもを速くハードにとつまみを上げる。サウンドシステムは良質で、彼のセットをパリッとクリアに再生していたが、僕にはこの早い時間にこの雰囲気は勿体なかった。セットの後半になってようやく辺りは暗さに包まれ始め、星がこちらを見返している。暗がりで踊るダンサーたちの姿が目撃された頃にようやく、彼の音楽がその夜のムードと共鳴し始めた。クラウドは闇とレーザーとプロジェクションを浴びてワイルドに、レイヴィーに貪欲に音を求めている。長い夜を目前に。
    短い休憩を取っていた僕は、Hidaiのセットの後半1時間を見るべく、あの丘を登っていた。小さな橋を越える必要があり、屋内フロアのある小屋へ向かう道すがらは、映画『地獄の黙示録』の最後のシーンを思い出させる雰囲気。百近い蝋燭に照らされる小道は秘密を隠しているかのように魅惑的な雰囲気で、風が吹くと照らされた木々が揺れた。くつろぐ人々を横目に、この感じはまるで、屋内のアフターパーティーに向うというよりもむしろ、マジカルな音楽の寺院に向かっているみたいな気持ちになった。屋内は、野外と同じくらいミスティークだった。フロアは釣り網で覆われ、カラフルで重層的な幾何学模様を織り成していた。フロアの向こう側に据えられているDJブースが、スモークとレーザーの隙間から垣間見、確認できた。全体のデコレーションやレイアウトは、野外と屋内のどちらも、丁寧に考えられ作り上げられており、この新しい会場に向けられた主催者たちのエネルギーと愛の量を計り知ることができた。 Hidaiに続いたのはRuralのAtsushi Maedaだった。彼はHidaiがテクノで終えたのを受けてテクノで始めると、やがてゆっくりとエレクトロやブロークン・ビーツを取り入れてゆき、やがて4分の4拍子のレイヴィーな音でセットを締めくくった。続いたのはJASSSで、彼女もこの4/4を汲み取ったものの、特別ギアを上げたモードへ加速。よりハードに、より速く、ハード・テクノやトランスといった音に展開した。BPMは140に届こうとしており、所々でまるでハード・コアを聞いているようだった。夜を通してパーティーは中盤に差し掛かかっており、音楽の寺院は絶頂するレイヴのドームへと化していた。 BPMの加速について行けなくなったところで、短い睡眠をとることにした、次に戻るのはStefan Vincentのセットと決めて。テクノ、ブレイク・ビーツ、ジャングルの海を漂う選曲は、ゆっくりと柔らかい音に展開していき、太陽の最初の兆しが窓を通って差し込んできた。最後の1時間のどこかで、Radioheadの”Idioteque”が突然かかると、歓声とともにフロアに歓喜が満ち渡った。
    満足した笑みで人々を見送りながら、僕は二日目のメインステージのオープンニングに取り掛かるLuxを聴きにやってきた。彼のセットは優雅で、優しく、ゆっくりとしたテンポで始まり、徐々に起き始めた観客に呼びかけるようにBPMを揺らぎながら展開した。朝食よりも嬉しい音楽のご褒美だった。 次に仕切るのはブリストルのHodgeだ。トリッピーに始まった彼のセットは、個人的にこの日のハイライトとなった。ブランチも昼食も晩飯も兼ねるかのような、満足の音楽的体験。UKベースや、ちょっと変わった歌ものや奇妙なトラックと、享楽的なハウス、これに所々テクノの名曲を織り交ぜた選曲は、クラウドを再びその気にさせるのに最適だった。 照る太陽の日差しにすっかりと覆われたステージは、Zadigに渡された。4時間のセットを通して、彼は何度も丁寧に重厚なテクノでクライマックスを織り上げて、集まった全てのダンサーたちが思いっきり踊れるようにという配慮に事欠かなかった。僕は日が暮れた会場を後にする時、このフェスティバルの質の高さに思いを巡らせていた。音楽はもちろん、デコレーション、ロケーション、クラウド、オーガナイズの全てにおいて、Paramountは価値ある体験を提供してくれた。
    Photo credit / Yumiya Saiki
RA